男友達に話したら

2/2
前へ
/4ページ
次へ
 私は、この暗闇には慣れているのだ。真っ暗な空間で彼は目を見開き、その表情がみるみる絶望に歪んでいく。思い出したようだ。 「ねえねえ。異世界転生をした人の中にも、レアケースがあるんだって」  彼は手探りでドアまで辿り着くが、ドアノブを捻ってもガチャガチャとやかましい音が響くだけだ。 「前世の記憶の引き継ぎだよ。極稀にいるんだって、そういう珍しい人」    私は彼に察知されないよう背後に忍び寄り、微弱な(つもりの)電気魔法をお見舞いさせる。  唸るような悲鳴を上げたと思えば、あっという間に床にへたり込んでしまった。チョロい。 「でも、そういうのって厄介なの。この世界も何億年という軌跡の上で出来上がった代物なのに、あっちの価値観持ち込んで無双したり好き放題したりして」  彼が(うずくま)っている間がチャンス。拘束器具を彼の手足にセットし、首輪もかける。首輪は杭から伸びた鎖と繋がっている。 「だから、転生者の記憶は転生後に速攻消すの。残っていたら、また消去するの」  親しい間柄にある人間に「黒い部屋」の詳細を話せば、記憶が抹消しきれなかったりこちらが見逃していたりした異世界転生者はホイホイと釣られてくる。そうしたら、この世界の安寧を保てる上に、こっちはアルバイトだから稼げる。一石二鳥だ。 「最近それっぽい人見つからないから不安だったけど、こんな身近で発見出来るとは思わなかったよ」  その時。外側からドアをノックした音が聞こえた。私は一瞬警戒モードに入ったが、入ってきた人物に笑顔を見せる。 「あ、先輩お疲れ様です。その手にしているスライムは?」 「お疲れさん。こいつは先日襲ってきた魔王軍の雑魚敵。異世界転生してきた人数が異常に増えたからね、今度はあっちにも送り込まないと」  そうですね、と相槌を打つ。今や転生とは貿易のようなもので、こちらの世界とあちらの世界の不釣り合いを無くすため、「こちらからの転生者」も送らなければならない。  風船サイズのスライムはぐちゃぐちゃと身体を伸び縮みさせて抵抗するが、先輩の握力は尋常じゃない。そのまま先輩は短剣でスライムを刺してしまった。先輩の手元には仄かに光る魂のみが残った。  不愉快な粘着音を立てて、スライムだったものが飛び散る。それは壁や床に散ると、水色だったのが段々黒い液体に変化し、それもまた色の一部になった。そうしてまた黒が上書きされる。 「それをワープホールに放つんてすよね」 「いや、簡単な手続きを済ませてからだ。あーあ、ウン百万ある僕の借金はいつ返済させられるのやら」 「私も、学費と将来の積み立てを稼がないと」  私には、まだ処理しなければならない事案がある。足元で苦しんでいる彼に電気装置の電流や電気魔法を、一時間おきに一週間浴びせる。前世の記憶が消え次第その他の記憶等のリハビリ……。多忙になるが、金のためである。  にしても。友達や私のように、互いの世界のことは勉強してほしいものだ。でないと、貴重なワープホールだって破壊神を転移させる装置にしかならない。 「こっちの世界に異世界の秩序を持ち込むなっつーの」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加