【短編小説・ラブコメ】金成くんは強欲です!

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 事件が起こったのはその後だった。 「ない! ないわ……!」  一人の女子生徒――飯田さんが、自分のカバンを探りながら騒ぎ出したのだ。   「熟代が消えてる!」  その言葉に、みんなはどよめいた。 「どうしてお金持ってきてるの? 学校にお金なんて持ってきちゃダメなハズなのに」 「でも、だって帰りに支払おうと思っていたの……一度帰るの面倒で」    焦り飯田さんはそういった。 「あの時、席を外したのって……斉藤さんよね」  飯田さんの言葉にみんなが、一斉に私の方を見る。    「えっ、ちょ……」    なにを、言い出すのだろう。それは、それは私のせいっていいたげに? 「え、でも私、保健室に行ってたもの。現金って、なにそれ。私だって今知ったし……」   「まあそうよね」「でも、他に誰もいなくない?」 みんなが思い思いの事を口に出す。   「本当に、知らないってば」  「でも、実際にないもの!」 「それは誰かにいったのか?」  そこで、金成くんが口を開いた。飯田さんに詰め寄るような形で。 「いってない、けど」   「そもそも変じゃないか? 誰にもいってない塾の費用を、どうして斉藤が知ってて、そのうえで持ってくって思うんだよ」 「そ、それは……わからないわよ、適当に探ったんじゃないの? みんなのカバンを」   「それなら足を怪我していた斉藤が、わざわざ教室まで戻ったってことか? そこまでの時間はなかっただろうし、当てずっぽうで探したって? さすがに考えにくいよな。 お金はどんなのに入れてたんだよ。財布、封筒、まさか丸ごと札束でってことはないよな? なにかしらあるだろ」 「うさぎのぬいぐるみで、チャック付きのポーチよ」 「ポーチなら余計に金があるって思わないだろ……というより」    金成くんは飯田さんのカバンをじっと見つめる。 「もしかして、そのカバンにちぎれた金具がついているから……そこにつけてたんじゃないのか? それなら探るとかどうとか、そういう話じゃ――どこかで落としたんじゃないか?」 「あ……!」  慌てて、数人の女子も男子が教室を探し回る。一部の子は廊下へ出て、戻ってきた。 「飯田さん、廊下にうさぎのポーチが……」  うさぎのポーチを受け取った飯田さんは、素早くチャックを開ける。 そこには、塾代のようなお札が何枚か入っていた。   「……ご、ごめん。疑っちゃって……、どうしようとパニックになっちゃって……」 「謝るなら、俺じゃなくて斉藤にだろ」  そうして飯田さんは、少し涙目になりながら私に謝ってきた。 「ごめんなさい……」 「い、いいの。見つかって良かった」    なんだろう、良かったのだけれども、とても胸が痛い。 疑われたことがだろうか。とても、胸が痛くなる。涙がぽろりと一粒落ちた。  金成くんは、じっとそんな私を見つめていた。 ***  昼休憩、金成くんにお手製のお弁当を屋上で渡す。 今日はとても美味しい、シャケ弁当だ。 「ありがとう」 「ううん、いいの。お礼をいいたいのは私。金成くん、さっきは助けてくれて、ありがとう」  その言葉に、金成くんは私の方を、私の目をじっと見てきた。 「俺さ」  とても悲しそうな顔を浮かべている。 「同じようなことが、小学校時代にあったんだよ。その時、貧乏だったからってだけで疑われてさ、誰にも信じてもらえなかった。ただそん時も、同じように見つかったんだ。謝ってもらったし、濡れ衣は晴れたけど、ずっとイヤな気分を味わったままで。だから」  金成くんはお弁当を置いて、私の両手を握ってきた。 すぅっと息を吸って、私をじっと見てきた。 「こういうときに、人を助けられる人になりたい、って思って。弁護士を目指そうと思ってる」  彼にしては珍しく、真剣な表情だ。思わず、夢を語る彼の顔を見て、とても、とても――カッコイイと思ってしまう。 「もちろん、有料だけどな」 「……うん」  やっぱり、そこは金成くんなのね、と思い笑ってしまった。金成くんは、それでいいと思う。  それで、きっと、夢をかなえてくれれば、いいと思う。   「金成くん、私を信じてくれて、ありがとう」 「……斉藤はそんなこと絶対しないよ、ちょっと気は強いかもしれないけど、お前は本当に、いいヤツだから」  人を見る目はあるんだ、と彼はそのまま言った。 「そうかあ、金成くんは将来弁護士なのかあ、大変だけど……頑張って。私、応援してるから。ずっと」  そう、私は、ずっと、応援する。 卒業しても、ずっと応援するから。
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