【短編恋愛読切SS】雨に唄えば。

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 梅雨が終わり、結局は俺が折れて新たな撮影場所――屋外への野外社交ダンス会場へと駆り出された。いかに俺と一緒にいるのはSNSで有名なキャシーといえども、周りにいるのは手練れやプロばかりで萎縮する。というより、キャシーそのものがトンデモ可愛らしいため、狙う男は多いだろう。そうこうしているうちに、「俺と踊らない?」なんてナンパ男がちらほらと出没する。  「俺たち、そろそろパートナー解消かな?」    ふいに気弱になり、かけたその言葉にキャシーの表情が珍しく曇った。  「霧島くんが嫌だから? 迷惑だよね……」  「そうじゃなくて、当初より再生数が落ちてきてるんだろ? きっと、俺とのコラボにみんな飽きてきてるんだ。それなら、俺と無理して組まなくてもいいんじゃないかな」  「でも私――霧島くんと踊るダンスが好きなの」  「俺も同じだよ。キャシーと踊るのは楽しい。すごく好きだ」  その率直な気持ちを吐露すると、キャシーは耳まで赤くなった。  「本当に、好きなの。だからこのまま、霧島くんの家にずっと通ってもいい?」  「それは構わないけど」  「もう、意味がわかってないでしょう! ……霧島くんそのものが、大好きなんだってば」  「……え、今、なんて?」  一瞬聞き間違いかと戸惑う俺。つないだ手が再び思い切り引っ張られる。デジャヴだ。周りからはテンポのいい――パソドブレが流れはじめる。  ステップを踏みタン、と高くあげられ長く伸びる細く白い脚。慌てて転ばないように腰を支える俺に対して、キャシーは柔らかにほほ笑んだ。  「霧島くん、さあ、踊ろう!」  長い雨が上がった太陽を背に、キャシーは今日も輝いている。
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