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2 〜綴〜 ちょっと前から俺が頭痛がする事はメンバーも知っていた。特に井波には自分から話した事もある。 元々人間嫌いではあったけど、近頃届く世間の声やファンからの縋るようなファンレターに精神的に何かが擦り切れていく感覚があった。 デビューが決まってから、ボーカルである俺は他のメンバーより、いろんな場所に借り出される事が増えていた。 本来なら凪野が担当していたような事でさえ、今では俺が表に立つ事になっている。 2日前は街頭に出る広告写真の撮影で、何故か俺一人の写真を使うと事務所から連絡があったんだ。本当は覚えていた。新宿にある撮影スタジオが用意されてる事も承知していた。 そもそも記憶を無くす程飲むのは、近頃じゃウォッカを煽り無理矢理眠る時くらいだから。 でも、身体が拒否する事がある。まだまだデビュー準備だと言うのに、人の念に絡みつかれて息苦しさで逃げ出したい事が多かった。 「一回病院行けよ」 井波の言葉に驚く。 「病院?」 「心療内科っつーの?如月さ、顔つき、ちょっとヤバい時あるよ」 井波の言葉に、背もたれから起き上がり頰を撫でた。 「心療…内科…」 呟いたら、ちょっと怖くなって、苦笑いしながら手をヒラヒラさせた。 「ないない…そんな、大した事じゃないよ、疲れてるだけだって。」 井波はチラッと俺を見て、何も言わなかった。 「おっはよ〜!」 「おはよー」 「うぃ〜っす」 暫くしたら、会議室に凪野、舟木、鮫島さんが入って来た。 井波が凪野の頭をこつくようにして「おせぇんだよ」と怒っている。 「ハハ、ごめんごめん!道が混んでたんだよ!」 井波に謝りながら、凪野は俺をチラッと見るとニッコリ笑った。 「ヘラヘラすんなっ」 井波がそれを見てまた怒る。ヘッドロックされそうになるのを回避した凪野は、俺の隣に座り助けを求め抱きついてくる。 「つづちゃん!助けてっ!」 「アハハ、井波、もう勘弁してやりなよ。いつも俺達のが遅いし」 「そーだそーだ」 「テメッ凪野っ!」 凪野が煽ったせいで井波がまたキレた。会議室で追いかけっこが始まる。まぁまぁ、この二人の上下関係は今に始まった事ではない。 井波は凪野に厳しいんだ。 反対の空いた席に舟木と鮫島さんが腰を下ろした。 「つづ、顔色悪いぞ、大丈夫か?」 鮫島さんに言われて、また苦笑いが漏れる。 「大丈夫。ちょっと飲み過ぎだよね、最近」 そういってかわしたら、舟木が冷たい缶コーヒーを手渡してくれた。 「つづちゃん、あげる。俺、さっき下で一本飲んだから」 舟木は分かりやすい嘘をついて、俺を労った。 「ありがとう、舟木」 「うん」 舟木は柔らかく微笑む。 メンバーは全員地元の連れで、構えるところがなくて和む。 病院になんて行かなくたって…みんなが居れば…俺は大丈夫だ。
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