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42 〜宝〜 如月は長い髪を掻き上げながら話を始めた。 「歌詞を書く時は…基本的には夜が多いですね。ノートに向き合ったり、PCに変えてみたり…環境的にはそんな感じで、後はもう井波と舟木が作ったメロディで思い浮かぶ情景があるので…そうですね…それを文字に起こす感じなんですけども…まぁ、これがなかなか難しくって」 「と言いますと?」 「朝起きて、書き上げた詞を見たら、もう何だこれ!みたいなのもありますし…結構無様な姿になりながらやってますね」 苦笑いする如月に、仲居さんは頬を赤らめながら、なるほどなるほどと深く頷く。 台本にはザックリした流れと質問内容が書かれている程度で、かっちりしたセリフが用意されているわけではない。 そんな如月の動きや話す声はスタジオにいる全ての人間を魅了していた。 触れ合ったままの膝の角がジンとする。 「では井波さんもやはり、曲が生まれるまではかなりもがく感じなんでしょうかね?」 クリスさんが突然舵をこっちに切るもんだから、俺は吃ってしまう。 「ぅ…え…ぁ…っと…その…いや、俺は」 仲居さんの表情がヒクッと引き攣った。 「井波は、音がずっと鳴ってるタイプですよ。」 そう言って人差し指でこめかみを指し、如月は続けた。 「曲作りってなると、締め切りはいつもズレ込むんですけども、持ってくる曲数が多くて…逆にまとめるのが大変になっちゃうんだよね」 宝石のような目が、誰に遠慮する事もなく俺に微笑みかけた。俺は小さく頷きながら返事する。 「うん」 「お二人は仲良しですよねぇ、NOT-FOUND自体が凄く仲が良いとうかがってるんですが…えっと…確か全員地元が同じ…でしたね」 「えぇ、そうですね」 「全員同級生で」 「いえ、ドラムの鮫島は五つくらい上なんですよ。地元の大先輩ってやつですね。あと、凪野と舟木は俺と井波の一個下で…」 「そうなんですねぇ!全員同じ年じゃない事がまた仲良しの秘訣かもしれませんねぇ」 俺はいつまでも触れ合った膝同士を見つめていた。 「はいっ!そして、セカンドアルバムに続いてですね!ファンの方に重大なお知らせがあると聞いております!」 クリスさんの振りに如月が頷いた。チーさんにもしっかり宣伝してこいと言われたのを思い出す。 「えぇ。セカンドアルバムが出るタイミングで、ライブがしたいって話になりまして。一応、武道館が」 「復帰第一弾ライブが武道館ですか!」 「えぇ、イベンターさんが持ってる日で動きますので、特に俺達が思い入れある日というわけでもないんですが」 如月の意外なぶっちゃけにクリスさんも仲居さんも笑ってくれる。如月は話し下手なくせに一言二言で笑いを作れる。多分、こんな二次元か西洋絵画みたいな顔から放たれるはずないと周りが緊張しているせいもあるんだろう。 「ははは!じゃあ、NOT-FOUND的にはイベンターさんの持ってる日に!あの武道館!という事ですね!」 如月もクスクス笑いながら「えぇ、その通りです」と頷いた。
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