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74 〜宝〜 外へのアナウンスが響く。 中ではギリギリまで通路を走りまわるスタッフ達。 如月が個室から大部屋の楽屋にやってきた。 髪をウェットなジェルでオールバックに撫で付けられている。 衣装は相変わらず黒一色だ。それなのに、異様なまでの輝きを放つ。 市野さんや、サワキタさん、田中さんが言うように、如月は完全にスターだった。 「井波?」 如月が首を傾げ、こちらにやってくる。 ちょっと見惚れ過ぎてしまった。 「ちょ、調子は?」 何とか取り繕うように問いかけると、如月は 苦笑いして少しばかり酒を注いだと呟いた。 俺はポンと如月の肩を叩く。 凪野がそこへやってきた。 「つづちゃん、ツアー始まったばっかだし、徐々に調子整えて行けば平気だよ」 髪をガッチリスプレーで立たせた鮫島さんがスティックを指先で回しながらやってくる。 「つづは思うように表現すりゃ良い。後ろからケツ叩いてやるからよ!」 舟木が目をこすり、欠伸混じりに言う。 「つづちゃんはいつでも最高だよ」 いつの間にか出来た円陣。 その真ん中に向けてピースサインを出した。 凪野のピースが、鮫島さんのピースが、舟木のピースが重なる。 如月はそれをじっと見つめて、自分のピースサインを一番上に重ねた。 「…よし…楽しもうぜ」 俺が呟くと、みんなが頷いた。 ステージから光が漏れてくる。 下手からステージへ。 歓喜の叫びを全身に受けて、長いツアーが始まった。
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