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〜綴〜
四人がステージで音を鳴らし始める。歓声に混じったバンド音が耳を突き抜け、テンションを煽る。
その場で全身の力を抜き、ピョンピョンとジャンプする。
後ろで山路さんがポンと背中に触れた。
「頑張って」
「ありがとう、行ってくる」
山路さんがニッコリ笑って頷いた。
俺は両手を上げながらステージ中央に向かう。
大きな歓声と、ステージが波打つような人の揺れ。
「Ladies and gentlemen! welcome to the new fuckin great showッッ!!!」
高く天に昇るようなギターが鳴り響く。
歓声とステージに伸びる沢山の手。
マイクスタンドに手をかけ腹から声を出す。
キラキラと輝く照明が、黄色から白に点滅し、大画面モニターには歌詞をなぞるような映像がバンバンと流れていく。
長いコートの裾をドレスのように摘んで振る。
クルクル回りながら、舟木に近づくと彼の肩に頭を寝かせマイクを持っていない手を客席に伸ばす。
LOVE is LOVEから始まったコンサートは盛り上がる。
熱気が揺れる。
♪
パンタグラフの火花
朝霧の憂鬱
キスの後の甘さ
通りの神秘
憂愁の絵画
不安なの?いつも?
おまえを待っている
闇は晴れ 光のはしご
七色のガラス窓
星屑の夜空泳げば
一つになろう
LOVE is LOVE
怖くはない
LOVE is LOVE
♪
井波の作詞作曲のLOVE is LOVEは明るく前向きだ。俺の中にない言葉が、淡く輪郭を見せて優しく誰もを包む。立ち止まり泣いている人にそれでも愛はあるよと伝え続ける。雨が降れば、傘をさしてあげるよと、温もりを感じる歌だ。
俺は傘をさしかけない。きっと、雨が降れば、一緒に濡れようとする。そこに温もりがあるならば、俺達の目指す着地点は同じに違いない。
舟木が作ったClose your eyesに移る。
会場が薄い藤色に照らされて、ヒラヒラと花びらが舞うように照明が光る。
♪
春がくると花が咲いて
雪は溶けて
夢現つあなたのことを想い
溢れて止まない愛が
春がくると色が咲いて
雨は上がり
夢現つあなたのことを祈り
乾きながらこの愛が
拾い集めるよ 闇が君といても
揺れる時の中で 闇が君を愛しても
愛してる 愛してる 手を伸ばして
Close your eyes …
♪
薄紅色に変わった光は、下から上に向けて放たれる。
俺も、少しは優しい歌が歌えているだろうか?
誰かを癒せているだろうか?
歌詞は己に跳ね返り、バケツの水を被ったように冷たく孤独になる事もあるけど、CDになった時より、こうしてコンサートで命を擦り合わせると、曲の色が変わってくる。照明、観客の表情、メンバーのアドリブアレンジ、モニター映像…世界観を作る会場全てが一曲一曲に命を吹き込んで育つ。
「もっと愛してくれっ!!GOD is nightmare ッッ!!」
夢だよ、全部夢さ、幻かもね。
…なんて嘘で誤魔化したっていいだろ?今だけなら、優しい嘘の中で…そこで生きればいいのさ。
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