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1 〜宝〜 会議室はひんやりしていた。 夏だし、冷房入ってるし、当たり前か。 メジャーデビューが決まって、初めてのアルバム制作をする事になった。 少し前に、メンバーでダラダラ飲んでたら、朝方には居酒屋の窓から差し込む光に照らされてテーブルに置かれた紙ナプキンに、アルバムタイトルが殴り書きしてあった。 タナトスとエロス。 死んでいく事と生きていく事。死と愛。 如月が書く歌詞に深く影響を与えている深層心理みたいなモノが浮ぼって見えた。 「…すぐ帰りたい」 会議室の長机に頰を寝かせた男は両手で顔面を乙女のように隠して呟いた。 俺がさっき「帰ったらSEXしよう」なんて言ったからだろう。 高校から今まで、俺達の間には今にもヒビが入ってドボンと沈んでしまうような、薄い氷の張った湖の上を歩いているような関係が続いていた。 抱きしめ合ったりする。 髪を撫でたり、キスをしたり、お互いの性器に触れて欲望を吐き出す事もある。 ただ、まだSEXしていない。 その理由は恐らくNOT-FOUNDにあって、俺達がSEXする事なんかより、音楽と一緒に生きるって事がベースとして絶対的に横たわっているからだと思う。 バンドを組んで、インディーズレーベルに入り、CD出したり、ツアー回ったり… 色々な事があり過ぎて、相手がどんどん手の届かない存在になっていく。そんな感覚を俺と如月は感じていただろう。 「打ち合わせ時間、過ぎてるよな」 会議室の時計は昼の13時を過ぎていた。 「…いつも俺達が遅いからな」 はぁ…っと深い溜息を吐きながら如月が机から身体を起こした。 ギシッと音を立てて、今度は反対に身体を逸らす。 長い黒髪がユラっと揺れて、それを見ながら呟いた。 「こないだおまえが来なかったからじゃない?」 そうだ、2日ほど前、メンバーを含み、何人かの業界で仲良くなった面子と朝まで飲んでいた。如月以外は翌日仕事はなかったんだけど、コイツだけは写真撮影があったんだ。それを、確か忘れてたとか言ってスタジオに行かなかったんだよな。 「あれは…忘れちゃってたし」 如月は背もたれにのけ反ったまま天井を見上げて呟いた。 最近、如月が変だ。少し、いや…かなり異変を感じる。
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