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130 〜宝〜 たこ焼きパーティーから数日。 俺たちNOT-FOUNDは田中さんに呼び出され事務所に集まっていた。 「待たせたなぁ〜」 扉を開け入ってきた田中さんは小脇に抱えていたPCを開き、俺達の方へ画面をクルリと回した。 五人全員が画面に首を伸ばす。 「何?…イベント?」 凪野が小首を傾げながら呟いた。 「年末の武道館の前に、ミニツアーでも組んだらどうかって話が上がってたんだけどな、ちょっと段取りが上手くいかないっぽいから、イベントに出演ぐらいでどうだろうって」 実のところシングルとして出せる音源は何曲か仕上がっていたけど、俺と如月の事がゴシップ週刊誌に取り上げられかけた事件で、暫くの仕事を田中さんがカットしていた。 働かなくても、おそらく武道館のチケットは捌けると踏んでいたからだ。 「…ファンはお前達の活躍を待ってる」 田中さんが優しく微笑んだ。 鮫島さんが、腕組みをして話しはじめる。 「まぁ…そうだなっ。年末まで自主練だけも張り合いがないし、ちょっと他所で暴れんのもいいんじゃないか?」 凪野が大きく頷くと、舟木もつられるようにして頷いた。 俺はPC画面のフェスの広告を見てから如月の顔色をそっと覗く。 目が合うなり、片方の口角をニヤリと引き上げて、俺に呟いた。 「やりたいでしょ?井波は」 そう言われて、ゆっくり画面に視線を戻す。 世の中でヴィジュアル系と呼ばれているバンド名が並んでいた。 この中に参加したら、きっと面白い。フェスといっても、ようは対バンみたいなもので、昔のライブハウスみたいに客の奪い合い。それはどれだけステージで輝けるか、客席をどれだけ煽れるかで面白い結果が出る。 「やりたい、面白そうじゃん」 呟くと、凪野がガシッと俺の肩に腕を回して「そうこなくっちゃっ!」と喜んだ。 「よしっ!じゃ、相手方に返事するとして…」 「今、作業してるシングルの初出しをそこに当てたいな」 「あぁ…夏のツアーの持ち曲じゃ、パンチ足りないって?」 「せっかくならね」 あの事件後から少しずつレコーディングしていたシングル。 それを組み込んだアルバムの作業も進行していた。 「よし、良いだろ。フェスで新曲解禁で、発売、その後武道館でアルバム発表だな」 「うわぁ、何だか一気に忙しく聞こえてきちゃった」 凪野が指を折り数えながら苦笑する。 「楽しみ。"EAT ME"早くライブでやりたかったんだ」 舟木がギターを弾く真似をして微笑んだ。
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