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過ちは繰り返される
めくるめく一夜を終え目覚めたリリアは、隣で眠るカインの腕の中、昨晩の閨を思い返していた。
いたんなく絶倫ぶりを発揮したカインは、リリアが泣き崩れた後も良いように彼女を丸め込み、明け方まで離さなかった。
何度イヤだと叫ぼうが、ヤメてと泣こうが、ストッパーの外れたカインの攻めに永遠と喘がされ、抜かずの三発をおみまいされたリリアは気を失うことで、やっと解放されたのだ。
ほんと絶倫で、イヤになっちゃうわ。
幸せそうにスヤスヤと眠るカインを見ていると沸々と怒りが湧いてくる。思いっきり蹴飛ばしてやりたいが、一晩中酷使されたリリアの身体は、指一本動かせない有りさまだ。
リリアは一つため息を吐き出し、昨夜のカインとのやり取りを思い出す。
どうしてあんなに泣いてしまったのかしらね……
カインに諭されるまで、侍従に化けたリリアにカインは気づいていないと思っていた。
尋問と称して行われた淫雛な行為に、初心の身体は従順に反応した。カインの手管に翻弄され、リリアの身体は己の意志とは関係なく反応し快楽を貪欲に求めた。しかし、リリアの心は気づかぬところで、涙を流し続けていたのだ。
それが達して放心状態になったことで、限界をむかえていた心に亀裂が入り、切ないほどの想いがあふれ出した。
カインに抱かれているのはリリアなのに、カインが抱いているのはリリアではない別の女なのだと。
今ならわかる。どうしてカインを攻めにした物語を書こうとしなかったのか。
結局、男だろうと女だろうとカインに抱かれるのは私だけであって欲しかったのよね。
たとえ物語の中であっても。
わたくし……、思った以上にカイン様を愛していたのよね。
深いため息を吐き出し、情事の跡の残る身体を隠すためシーツを引き上げた途端、カインの腕に引き寄せられリリアは彼の胸の中へと抱き込まれてしまう。
「……リリア、おはよう。身体は大丈夫?」
眠そうな目を擦り見下ろすカインを見つめ、リリアの内に悪戯心が芽生える。両手でカインの顔を包み、自ら深いキスを仕掛けた。
『ちゅっ……、くちゅっ』と淫雛なリップ音が、爽やかな陽の光が差し込む寝室に響き消えていく。
そんなリリアの大胆な行動に、大きく目を見開き固まるカイン。リリアの心が満たされていく。
これで少しは反撃出来たかしら……
クスクスと笑うリリアの頭上から不機嫌な声が降ってくる。
「リリア、朝から積極的だね……、これは夫として期待に応えないと」
カインの言葉に思わず顔をあげたリリアは、己の浅はかさに気づいていなかった。黒い笑みを浮かべ、リリアの顎を持ち上げたカインの唇が迫る。『あっ……、まずった』とリリアが思った時には遅かった。朝から絶倫夫の欲を煽ったリリアは、この後、再度、己の認識の甘さを痛感することになる。
妻からの可愛いおねだりを嬉々として叶えたカインは、昨晩以上の絶倫ぶりを発揮し、その日一日、王太子夫妻が部屋から出てくることはなかった。
そして、数ヶ月後。ひとつの物語が完結した。
『王太子は秘密の夜に溺れる』
いやぁ~、長かった。
やっと、完成したわ。ハインツ様×カイン様の王太子調教もの♡
リリアは仕上がった一冊のノートを胸に抱き、悦に浸る。物語が仕上がるまでの紆余曲折を思い出し目頭が熱くなる。
カインへの深い恋心を自覚したリリアは、カインの名前で物語を綴ることが出来なくなってしまったのだ。そしてとった苦肉の策。今までの話をすべて架空の人物として書き直すことにしたのだ。
ふふふ、あの夜のカイン様からの尋問は良い参考になったわねぇ。
スパイ容疑をかけられた攻め様を受けの王太子自ら尋問するシーン。体験しただけあって、臨場感たっぷりの仕上がりになったはずよ♡
そんな苦労でもなんでもない苦労を思い出し黒い笑みを浮かべ肩を震わせ笑うリリアには、背後で大きなため息をつくハンナの呟きは届かない。
「――――、王太子さま。おかわいそうに」
それから数年が経ったある日。王城の侍女の間では、ある物語が噂の的になっていた。
『王太子は秘密の夜に溺れる』
古びた一冊のノートが人から人へ、ゆっくりと渡っていく。そして、王城を飛び出し、貴族令嬢から夫人方へと渡り、社交界に一大ムーブメントを巻き起こした。
人から人へと渡った古びたノートは、なんの因果か王太子殿下の手に渡り、ある日、執務室に大絶叫を響きわたらせることになる。
一冊のノートを握りしめた王太子カインの受難は、まだまだ続く。
END
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