若い男には勝てないのか【カイン視点】

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若い男には勝てないのか【カイン視点】

「はぁぁ、私はどうしたらいいのだろうか?」  カインは執務室の机に突っ伏し大きなため息をついた。 「王太子殿下、鬱陶しいですよ。執務をする気がないならさっさと出て行ってください」  王太子の私に、こんな辛辣な口がきけるのはハインツくらいなものだ。  そう思っても、向かいの席から冷え冷えとした視線を投げられれば、黙る他ない。  カインは少しばかりの反抗を込め、涼しい顔してペンを走らせるハインツを睨む。  エリザベス嬢とラブラブだからって。  お前の執務量を今の倍にして、エリザベス嬢と会わせないようにしてもいいんだぞ!  まぁ、そんな事したら後が怖すぎなのだが。  カインの右腕として政治の根幹に関わる仕事もこなすハインツは、『王国の影の支配者』と呼ばれ、政治の中枢を担う官僚や文官のみならず、発言権を持つ高位貴族にも影響力をもつ。  ハインツの不興を買えば、政治生命のみならず命まで失うと恐れられる人物だ。  実際、確固たる証拠はないものの、彼が係り闇に葬られた貴族もいると噂されている。  王太子といえども、ハインツの不興を買えば己の首をしめかねい。だからこそ、ハインツの存在が王太子という立場に驕らず、謙虚に努力する姿勢をカインに与えているともいえる。  ただ、ハインツの態度に不満が募る。  まぁ、心の中で何を思っていようとも、相手に悟らせなければ何も問題はないのだが。 「はぁぁ、カイン様。何があったか聞いてあげてもいいですよ」  呆れた様子を隠そうともせず、ため息混じりの提案に正直怒りがわく。しかし、ハインツは不可能と呼ばれた公爵家同士の婚約を陛下に了承させ、エリザベスを手に入れた男だ。  考えもよらぬ意見をくれるかもしれない。  ハインツに助言をもらう腹立たしさよりも、悩みを解決したいと思う気持ちの方が優ったカインは、リリアと結婚してからの数ヶ月の出来事をハインツに話した。 「――つまり、リリア様が毎日のように近衛師団の練習場に通い詰めていて心配だと。もしかしたら浮気をしているかもしれない」 「あぁ、結婚前からよく練習場で見かけたんだ。近衛師団の中に恋人がいるかもしれないだろう。私は、ふたりの仲を割いてしまったのだろうか? それでも、リリアを手放すことなんて出来ない」 「そんなの、本人に聞けばいいだけじゃないですか。そして、泣いてすがりつけばよろしい」 「そっ、そんな事できるわけないだろ!! リリアは、十歳も年下の少女だぞ!」 「少女って……、二十歳は立派な大人だと思いますが」  ハインツのあきれ混じりの冷たい声は、リリアとの出会いを反芻し『浮気男との関係はあの時からなのか?』と、悶々と考えていたカインの耳には入らなかった。
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