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ふふふ、これで絶対にバレないわ。
まさか王太子妃が男に化けているなんて誰も思わないもの!
侍従に似せたカツラも被ったしバッチリよ!
黒のお仕着せ姿のリリアは、お茶をのせたワゴンを押し、鼻歌混じりに王太子執務室へと向かう。
ハンナの目を誤魔化すのに手こずったが、私室からの脱出に成功したリリアは上機嫌だった。
執務室の隣の控えの間で、コッソリ覗き見するのが安全よねぇ。
でも、こんなチャンス二度とないかもしれない。出来ればカイン様とハインツ様の濃密なやり取りを間近でみたいわ。
欲望に忠実なリリアは腐女子的欲求に負け、隣の控えの間を通り過ぎ、執務室の扉を叩いていた。
「失礼致します。お茶をお持ち致しました」
リリアはバレないように、俯きながら室内へと入る。
バレてない。バレてない。
緊張からバクバクと疾走する心臓をなだめ、長い前髪の隙間から室内の様子を伺う。すると執務室にはカインとハインツしかいなかった。
わぁ~、望みのツーショットが見られるなんてラッキー!
二人は顔を突き合わせ、何やら難しい話をしている。リリアはテーブルにお茶の準備をしながら、二人の様子を伺う。
はぁ~、美丈夫ふたりのツーショット。眼福♡
あのまま、抱き合ってくれないかしら。
そして、二人の唇が近づいて……
腐女子的妄想を繰り広げていたリリアは気づいていなかった。
「カイン様、先ほどから怪しい侍従が室内にいるようですが」
「あぁぁ、そのようだな。ちょっと、詰所まで連行してくる」
「――――えっ!?」
突然響いた不穏な言葉に、リリアは慌ててその場から離れ扉に向かうが時すでに遅かった。
扉へと届く前にカインの腕に捕まったリリアは抵抗虚しく引きずられていく。
不審者を取り締まる詰め所ではなく、王太子殿下の私室へと。
「――――、それで君は誰なんだい? いつもの侍従とは違うみたいだけど」
フカフカのソファへと座らされたリリアは、カインの尋問に小首をかしげる。
もしかして、カイン様にバレていない?
「あのぉ、彼は今日風邪をひいてまして、その代わりです。僕は、弟です」
「おかしいなぁ。いつもの侍従の彼には兄弟はいなかったはずだが? ますます怪しいなぁ。これは、私自ら尋問しないとダメかもしれないねぇ~」
「……へっ!? えぇぇぇ!!」
目の前で黒い笑みを浮かべるカインの言葉に慌てて立ち上がり逃げをうったリリアだったが、あっさり捕まり、カインの肩に担がれ寝室へと連行されていた。
カイン様って……
どっちもいけたのぉ~!!
ベッドへと放り投げられたリリアは、カインに押し倒される。
危険な色気が駄々漏れるカインにリリアの心の叫びは届かなかった。
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