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短冊には願いごとを書くのだと教わって、私は健康な体が手に入りますようにと書いた。お隣のベッドのイズミさんがちらりとそれを見、黙って車椅子を押してロビーまで連れて行ってくれる。
病院のロビーに設置された笹は、子ども達の願い事で埋め尽くされている。
私は振り返ってイズミさんを見た。
「明日退院なんだってね! おめでとう」
「うん……」
「健康になって良かったね」
イズミさんの顔が強張り、青ざめる。
「どうしたの?」
明日退院なんてできるのかと疑いたくなるくらいひどい顔だった。私がじっと見つめると、イズミさんは震える声で呟いた。
「わたしは、あげないから」
ああ、やっぱり。
私と彼女の取引きを、イズミさんは聞いていたようだ。
私はにっこりと笑顔を作る。
「何でも叶えて差し上げますよ」
イズミさんが車椅子ごと私の体を突き飛ばした。倒れた私の体をイズミさんが悲鳴を上げながら蹴りつけるのを、駆けつけた看護師が数人がかりで取り押さえる。
私は横倒しになったまま、うーんと思考を巡らせる。
彼女はあっさり譲ってくれたけれど、健康な体を手に入れるのはなかなか骨が折れそうだった。
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