第弐夜 往けば怪路の日和あり

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 ファミレスに到着し、笑顔で手を振るクルミの前の席に腰を下ろした。ひといきついたところで、店員が二人分のパフェを運んできた。どうやら私がもうすぐ到着するとメッセージを送ったときに注文してくれていたそうだ。片方はイチゴ、もう片方はチョコ。クルミにどちらがいいかを聞かれて、迷わずにチョコパフェを選ぶ。イチゴの甘酸っぱさとのコラボレーションも捨てがたいが、どっと疲れている身体にはとことん甘いだけがいい。最高の気を利かせてくれたクルミに心から感謝しながら、早速スプーンで生クリームとアイスをすくってひとくち。 「はぁ……沁みる」  生クリームの甘さとアイスの甘さ、チョコソースの甘さが疲れた身体に染み渡る。どれだけ疲れていても甘い物を食べると元気が湧いてくる。これだから甘味はやめられない。 「それでさ、蜘蛛は蛇がやっつけてくれたの?」 「あー、それなんだけどね。なんて言ったらいいのか……」 「おお? なんかあったみたいだね」 「うん。実はね? 助けてもらったの」 「神様に?」 「ううん。……お姉ちゃんに」 「え!? ユイぽんにお姉ちゃんいたっけ?」 「私も初めて聞いたの」  私も困惑していることを伝えつつ、クルミと別れたあとに何があったのかを順を追って話していく。蜘蛛の行方を追うために子蛇が力を貸してくれて、視界がサーモグラフィのようになったことを伝えると、クルミは顔を輝かせる。クルミが言うには一部の蛇にはピット器官というものがあるらしく、距離は短いが温度差のある物体を感知できるそうだ。そして、内耳で振動を音として捉えて獲物の動きを知るという。ちなみに、私が一番可愛いと思っていた舌をチロチロとさせる行為にもちゃんと意味があり、あれは匂いを嗅いでいるのだそうだ。 「よく知ってるね。クルミ、蛇好きなの?」 「好きっていうか、ユイぽんから蛇の話を聞いたあとでちょっと気になって調べてみただけだよ。ネットで見ただけだからどこまで信憑性があるかも分かんないし、蛇の神様ならもっと凄いことしてるかもしんないし」 「そうね。子蛇のおかげで簡単に蜘蛛を見つけることができたわけだもんね」  逸れた話を戻す。子蛇が力を貸してくれて蜘蛛を見つけたはいいものの、遠くから蜘蛛糸を放ってくるだけで近づけなかったため、自らを囮にして近づいてきたところをお守りを壊してどうにかしようとしたことを伝える。すると、クルミは私を白い目を向けてきた。しかし、クルミの言いたいことは十分に理解できるため、それをしっかりと真っ向から受け止める。蜘蛛なんか蛇が丸呑みにしてくれるなんて啖呵を切っておいて、無鉄砲で自殺行為にも等しい行動を取れば誰だってそんな顔をしたくなるだろう。私がクルミの立場でも同じ顔をしたはずだ。 「じぃ~~~~」 「ご、ごめんなさい……」 「は~あ、まあ今回は無事だったから許すけどさ、そういうのは今後二度となしだからね? 約束」 「うん。約束」  クルミと指切りをして、今後はそんな無茶な真似はしないことを誓う。あのときは夢中だったため考えが及んでいなかったが、自分を粗末にしてしまうと助けられる他の命も助けられなくなってしまう。沢山の誰かを救うためには、自分のことも大事にしてあげなくてはならない。 「それで、危ないところをユイぽんのお姉ちゃんが助けにきてくれたわけだ」 「うん」 「ユイぽんのお姉ちゃんってどんな人? ウチのイメージだと顔はユイぽんに似てて髪はストレートロングで、目つきは鋭くてめちゃクールな感じなんだけど」  意外にも、クルミの予想はちょっとだけ当たっていた。髪がストレートロングというところと、クールというところだけ。まあ、何も知らなければそれだけでも当てられたら凄い方だろう。 「背丈はクルミくらいで目が赤くて、あとはその……猫耳」 「……え? なんて?」 「だから、猫耳」 「猫耳……って、コスプレ?」 「ううん。たぶん本物。ちゃんとぴこぴこ動いてたし」 「え、ど、どゆこと……?」  状況が飲み込めず困惑するクルミに対し、同じ立場である私に納得がいく説明ができるはずもない。彼女について、私は名前も住んでいる森の場所も聞けなかったのだから。 「ユイぽんのお姉ちゃんは人間じゃない……よね?」 「だと思う」 「でも助けてくれたってことは悪い人でもないよね」 「うん。精霊路を移動させるために、神様を森に連れていってくれたみたいだし」 「ユイぽんは間違いなく人間だもんね。ってことは、お姉ちゃんって言ってるだけで、血の繋がった本当のお姉ちゃんじゃないってことかな」  私が赤ちゃんだった頃に抱っこしたとも言っていたし、妹のような存在、という意味合いが強いだろう。それか、葛籠蜘蛛も人の怨念と蜘蛛が合わさった妖怪だと言っていたし、もしかしたらそういう風に何かと人間が合わさった特異な存在という可能性もある。 「私のことも子蛇のことも知ってたから、私に近しい存在なのは確かだと思う。だから明日にでもお母さんに聞いてみるつもり。きっとお姉ちゃんのことを知っているはずだから」 「何か分かったら教えてね。あとできればユイぽんのお姉ちゃんに会いたい!」 「そうなの?」 「だって蜘蛛を簡単にやっつけちゃうくらい強いうえに、猫耳お姉ちゃんでしょ? そんなの誰だって会いたくなるよ」  クルミの言い草につい笑ってしまう。私も助けてもらったのにろくにお礼も言えていないし、会ってちゃんとお礼がしたい。クルミのことも紹介したいし、近いうちにまた会えればいいなと思う。 「まあでも、何はともあれ精霊路のことが解決してよかったね♪」 「そうね。これで菜々子ちゃんが遅刻することもなくなるし、ひと安心かな」 「解決のお祝いに今夜はこのまま打ち上げしよ! レッツスイーツパーティー!」 「いいね~♪」  クルミの提案に即座に乗って、カロリーなんて気にしない、スイーツパーティーをふたりで心ゆくまで楽しんだ。
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