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義臣視点1
ウッド調で統一された空間に、観葉植物や庭の木々のグリーンが鮮やかに映えるリビングルーム。昼間は天井から床まである大開口の窓から陽の光が降り注ぐ。
今は夜。窓からは月の光が差し込んでいる。ラグジュアリーなイタリア製のデザイナーズ家具や、壁に掛けてあるアートが月の光にマッチしている。
部屋の明かりを落として、チェスターフィールドソファに座り、私は赤ワインを嗜んでいた。隣には息子の和成が座っていた。
「おまえも飲むか?」
「要らないよ。僕、カシスオレンジ持ってきて貰うから」
「藤原にか?」
「うん、藤原さん、カシスオレンジよろしくね~」
「はい、かしこまりました」
ドアの近くに立っていた執事の藤原が一礼して、部屋を後にした。藤原は我が家の執事長だ。歳は私より二つ年上で独身。橘家に尽くし過ぎて婚期を逃してしまったのか。歳を取っても相変わらず背が高くて美丈夫だ。眼鏡を掛けて神経質そうに見えるけど。
「そういえば知ってる?パパ。藤原さんって男の恋人が居るんだよ。相手がなんとお兄様の親友の岩崎さん。20歳過ぎてから付き合いだしたんだよ」
私は口に含んでいたワインを噴き出しそうになった。藤原に男の恋人?しかも久成ひさなりの親友の岩崎くんだと?藤原、お前もゲイだったのか?年齢が離れすぎてないか?
……そういえば、しきりと岩崎くんを家の中で見掛けると思っていた。そういうことだったのか??
「な、なにを言ってるんだ?和成」
「岩崎さん、高校生の時から藤原さんのことが好きだったんだ。ずっと片思いしてて……大学生の時に恋人同士になったんだよ。岩崎さん、ずっと一途でさ。早く付き合ってあげたらいいのにってずっと思ってたんだ。だから二人が恋人になった時、僕も嬉しかったな」
「な、なぜ、おまえがそんなことを知ってるんだ?」
「え?だって、僕も岩崎さんと友達だから。ゲイだと分かってお互いに色々相談し合ってるし。お兄様も知ってるよ。……二人が恋人同士になって嬉しいけど、少しだけ羨ましいな」
久成も知っているだと? ……相談。そういえば、和成がゲイだとカミングアウトした時、私にも言ってたな。好きな人が居ても見てるだけで告白をしたことがない、誰かに告白されても一歩踏み出す勇気がなくて、結局相手を振っていたと。私は和成をじっくりと観た。男の癖に可愛らしい顔をしている。背も高くないし、頑張れば女子に見えなくもない。
「ㇵァ……」
私は小さく溜息を吐いた。見た目が女子っぽいから男が好きなのか?
私はワインをグラスに注いだ。そして、ひとくち口に含んだ。
「話は変わるが、大学を卒業してから一か月経ったな」
「ああ、うん」
「どうだ?カレー専門店はもう慣れたか?」
「大学生の時から働いて三か月経つからね、流石に慣れたよ。今は揚げ物も任されてるし。あっ、そうそうパパ、カレー店の№1、№2って知ってる?」
「ナンバー?……いや、なんだそれは?」
「辛さを選べるんだよ。番号で表示してるんだ。ウチの店は№5まであるんだよ。食べてみたけど僕には辛すぎちゃった」
幸せそうに語る。そういえば初日から文句を言わなかったな、この甘えたな息子が。
やはり篝店長に和成を任せて正解だったな。すると、リビングルームのドアが開いた。
藤原が部屋に入ってきて、トレイに乗せているグラスを、和成の前に静かに置いた。
「ありがとね、藤原さん」
「恐れ入ります」
一礼して、藤原が再び入口付近に立った。
「そういえばさ、今更なんだけど。カレー専門店のスタッフって、僕と店長だけなんだよね」
和成が話しながらカシスオレンジを口に含んだ。
「ほお、カウンター席しかないから二人で十分だろう」
「それがさ。僕がバイトに来る前日にパートの人達、全員辞めたんだって。酷いよね。僕も仕事覚えるの大変だったし」
「ああ、そうか」
「まあ、店長と二人っきりの時間が沢山あって、僕は嬉しいんだけど」
部屋の中が薄暗くても、和成が紅潮してるのが分かる。和成のこの雰囲気……篝に惚れてるのか? なるほど。
……今のところ計画通り。
「パートやバイトを辞めさせたのは私だ」
「え?ええ?なんでそんなことしたの?パパ!店長可哀想じゃん」
「時給のいいバイトを紹介するように手配したんだ。皆直ぐに新しい職場に乗り換えたぞ」
「だから、なんで!」
「それは……」
意地悪でそんなことしたわけではない。それにはちゃんとした理由があるんだ。
少し前に話が戻る。そう、あれは和成がゲイだとカミングアウトした後のことだった……。
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