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義臣視点3
和成には三日間寝込んだと嘘をついたが、実際は寝込んでる場合ではなかった。
***
数週間後、本社の社長室で、私は報告書に目を通していた。
その報告書の内容は、興信所に依頼した篝恭介に関する身辺調査の書類だった。
篝恭介(かがりきょうすけ)神奈川県〇✕△市出身。両親、健在。四人兄弟の次男。二つ上の兄と、二つ下の双子の弟がいる。9月18日生まれ。現在28歳。血液型A型。最終学歴、高卒。23歳の時にフランチャイズでカレー専門店をオープンさせる。未婚。恋人無し。※同性愛者。兄が近々結婚予定。その他もろもろ……
「なんと!」
私は部屋中に響き渡るくらいの大声を出してしまった。
「ここに記されている内容は嘘偽りないな?藤原!」
傍に控えている藤原に、年甲斐もなく興奮しながら問いかけた。
「左様で御座います。間違い御座いません」
「……未婚、恋人無し、……同性愛者?」
「……義臣様」
「……同性愛者」
私は書類がぐちゃぐちゃになるほど握り締めて、ただ一点。同性愛者の文字を食い入るように見た。
恋人もいない、結婚もしていない。今欲しかった内容はそれだけ!
両親が健在なのはなにより。兄弟が何人居ても問題ない。
「今欲しかった情報は恋人がいるか結婚しているか。それだけで良かったのに……あろうことか、同性愛者!」
「はい、義臣様」
「ああああ~!藤原!すぐにでも和成をカレー専門店に送り込むぞ!」
「では……」
「そうだ!篝恭介を和成のパートナーにする。大丈夫だ、和成は可愛いから篝も直ぐに落ちるだろう」
「かしこまりました。早速準備致します」
「おい、藤原。カレー専門店のスタッフを全員条件のいい職場に移してしまえ。カレー店には篝と和成を二人きりにしろ。邪魔な人間がいなければ直ぐにでも恋人同士になるかもしれない。和成がカレー専門店で働く前日に、スタッフ全員を何処かに移動させろ。頼むぞ、藤原」
「そのような……?流石、義臣様。感服致します」
和成にゲイだとカミングアウトされてから、私は真剣に考えた。まさか息子が性的マイノリティだったとは思いもしなかった。
ショックだったが、父親である私が動揺してどうする?私は息子がゲイだということを受け入れた。しかし、私にも譲れない部分がある。私が相応しいと思った相手じゃないと受け入れられない。どこぞの馬の骨に大事な息子をやれるものか。
カミングアウトされたその日のうちに、当社の未婚である男性社員の社員名簿に目を通した。が、所詮紙に書かれている内容だ、人間味が分からない。他社の社員も調べてみよう。他社の令息にも目を向けてみるか?だが大抵の令息はプライドが高いからな……。
しかも皆、私の姿を見つけると媚びて愛想笑いを振りまく者が大半だ。今までは全く気にも留めなかったが、息子の相手にと考えたら鼻につくだろう。どうしたものか?まあ、焦らずともゆっくりと良い相手を見つけてやろう。和成も好きな相手が見つかるかもしれんし……変な奴なら決して許さんが。いや、和成が選んだ相手なら仕方ないか……そもそも社員や令息にゲイはいるのか?いや、和成は可愛いから大丈夫だろう。……なにが?
ああ~、私はどうしたらいいんだ!と動揺して悩んでいた時に篝のカレー専門店を訪れた。そして彼に会って衝撃を受けた。まるで雷を撃たれたようだった。
すごく素直で厚情がある青年だ。短い会話しかしていないが篝は認められると思った。私の息子として受け入れられる。なにより、和成を幸せにしてくれるだろう。一度会っただけだが私には判る。第六感が告げている!カレーを愛する者に悪い人間はいない!
しかも、嬉しいことに同性愛者なんて。こんなこと現実にあり得るのか?
ツイてるなんてもんじゃない!
神は私の味方なのか?
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