ジャスティス・ピンク

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ジャスティス・ピンク

 こう見えても私は売れっ子キャバ嬢なのだ。  キャバクラ店『アナザー・パラダイス』は連日満員盛況。  自慢ではないが店へ来る客の八割方は、私目当てと言っても過言ではない。  なのに私の財布(ふところ)はヤケに寂しい。  今月もなにひとつ贅沢なんてしてないのにどういうワケか赤字だ。  恥ずかしいことだが部屋代やスマホ代にも事欠く有り様だ。  恥を忍んで、常連客のダーリンたちに無心するほど切羽詰まっていた。  間違いなくネックは私がバイトでやっている正義の味方だ。  そうジャスティス・ピンクじゃなかったらこんなにも借金が膨らまなかっただろう。  はじめて正義の味方のバイトをしたのは中学二年生の夏休みのことだった。  暇つぶしに先輩に勧められ、初めたのが間違いの元だった。  上辺のカッコ良さに憧れ、面白半分に始めたのが迂闊(うかつ)だったのだろう。  『ジャスティス・ピンク』をやって、すぐにわかったことがある。  正義の味方は、噂以上の『ブラック職業』だと言うことだ。  誰が決めたのかわからないが正義の味方は、だ。  どういうワケか被害者らに報酬や見返りを要求するのは御法度(タブー)とされていた。  こっちは部屋代さえ払えないのに、どんなに凶悪な怪人を退治しても1円の報酬も(いただ)けない。  それどころか、交通費や治療費などの必要経費さえ出やしないのだ。  労災認定もされずケガをして病院へ搬送され入院しても自腹で支払わなければならない。    少しは売れっ子キャバ嬢をやっている正義の味方(わたし)のことも考えてほしい。
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