ジャスティスピンク

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ジャスティスピンク

 こっちは怪人が出現するたびにタクシーで乗りつけているのだ。  もちろん全て自腹で精算だ。    国会議員のような文書交通費みたいな毎月支給される特別ボーナスなど一切ない。  どうして国会議員には領収証もなしに、毎月百万円も文書交通費が支給されるのかわからない。  せめて私たち正義の味方にも行き帰りの交通費くらいは出して欲しい。  中には真っ赤なフェラーリで乗りつけるセレブな正義の味方(メンバー)もいる。  しかし資産家ばかりが正義の味方をやっているワケではないのだ。  こっちは貧しい売れっ子キャバ嬢なのだ。  (あわ)れなことに月末の夕食はカップラーメンばかり。    近所のスーパーの特売で買った、ひとつ百二十円のカップラーメンをすすっていた。  カップラーメンにトッピングする生卵も年々高くなる一方だ。  物価の優等生の生卵も昨今の値上げラッシュには勝てない。  どんなに食費を切り詰めても怪人が出るたびにタクシーで乗りつければ、赤字続きだ。  おかげで毎晩キャバ嬢をして、せっせと貯めた貯金は底をついた。  一生懸命、正義のために怪人を退治すればするほど赤字の額は雪ダルマ式に大きくなる。  真面目な正義の味方ほどバカをみるみたいだ。  負のスパイラルだ。  毎月月末の預金残高は雀の涙。  預金の残高照会を見るたびに泣きたくなってくる。  しかも怪人との戦闘でケガをしても労災は降りない。  それどころか、治療費や入院費まで自腹だ。  私は特別に神の手を持つ天才外科医、槇蔵人(マックロード)、ジャスティス・ブラックにタダで治療して貰っている。しかし当然のことだが入院中はキャバ嬢のお仕事は休みだ。  もちろん休業補償もない。  いくら売れっ子キャバ嬢として稼いでも赤字続きで部屋代さえ滞る始末だ。    なのに怪人は、ところ構わず現れては悪さをする。  今日もこれから真神コンツェルンの総帥、真神天司(まかみヒロシ)と同伴する約束だったのに、運悪く怪人と遭遇してしまった。 「ああァ、面倒くさい。ジャスト・チェンジ!」  仕方なく私は変身して怪人の前へ立ちふさがった。 『ぬうゥ、邪魔をするなァ。ジャスティス・ピンク!』  カニ怪人は大きなハサミを振り回し威嚇してきた。 「おいおい」  少しはおとなしくしてくれよ。  そんなに盛大にデッケェハサミを振り回していたら、危なくてしょうがない。
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