陽菜子

1/1

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

陽菜子

 昨日パパの…良太さんの帰りが遅かった。  今まで私とママが趣味みたいなもので、自分のことなんて全部後回しにしてたパパが、ギターを始めて洋さんと仲良くなっていっている。楽しんでるパパの姿を見られて娘としては嬉しい。  でも何か違う。  昨日のパパは洋さんのタバコの匂いが濃かった。一緒にいた時間が長かったからと言われればそれまでだし、そんなもんだと思ってしまうだろう。  でも何かが違うんだ。ハッキリとは言えないけど、娘の勘。今までのパパとは少しだけ違う感じ。  明日の朝ご飯の下ごしらえしてる時も何処か浮足立ってる感じだった。  もしかしてと考える一つの可能性。友達に腐女子が数人いるから、そんな話を聞かされてる私が考える一つの可能性。  パパが洋さんと付き合った?  ママが亡くなる数日前に言ったの。 「陽菜子、パパはさ、なんでも私と陽菜子優先で生きてきたじゃない?」 「うん」 「私も陽菜子もそんなパパが大好きだとおもうんだけど、もしパパに好きな人が出来たら応援してあげてほしいの。出来るだけ私を忘れて幸せになってほしい」 「パパがママを忘れることなんてないと思うよ。それからママ、もうすぐ死んじゃう遺言みたいな事言わないでよ。また退院して3人で暮らすんでしょ」 「そうだね、でももしもの話よ。もしも私がいなくなったら、陽菜子はパパじゃなくて良太くんて呼んで、出来るだけパパの力になってあげて。自分の事は自分でやるだけでも大きな違いだから。パパと呼ばないで対等に生きていく同志のようなものよ」  ママからそう言われてたから、ママが亡くなった後からパパを名前で呼ぶようにしたけれど、「良太くん」て呼ぶのはママだけの特権だと思ってたから、「良太さん」と呼ぶようにした。頭の中では「パパ」と呼んでたりする。  ママ、私の気の所為だといいんだけどね。洋さんも、いい人なんだ…。もしそうでも反対はできない。  ママ、そしたら陽菜子は一人になっちゃうのかな…。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加