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妻との話
妻とは所謂授かり婚だった。
私が人生で唯一予定外だったのが、妻との結婚、娘の誕生という出来事だった。
音楽を自分自身で奏でることが出来なかった私が唯一趣味らしい趣味としていたのが、地元のロックフェスに参加するというものだった。
毎年夏になると地元の友達数人と参加するフェス。成人したらビール片手に楽しむ友だちも出てきて、私も真似てみた。
ビール片手では前列に行くのは物理的に無理で、ちょうど見たいバンドの順だったのに、今ビールを買った自分は考えなしだったなと思った。
後から温くなったビールを飲むか、それとも大人の真似をして、ビール片手に遠くから楽しむか。私は後者を選んだ。
友達は前の方に行ってしまい、自分一人でまだ苦みしか感じないビールを飲む。飲み切るまでには温くなっているだろう。
と、隣に、同じくコップを持ち、音楽に体を揺らす女性が近づいてきた。彼女は露出多め子服装で、今まで縁が無い人種だった。
「ビール?」
「そうです」
「前行って聴かないのは、このバンドは目当てじゃなかったの?」
「違います。寧ろこのバンドが目当てだったのに、大人の人の真似してアルコールを買うタイミングを間違えてしまって」
「なにそれ。かっわいいね」
ニコッと笑ってこちらを見た彼女は私をからからかっているのかと思った。
大人のお姉さんにからかわれた。後から聞いたら自分の二つ上なだけだったのに、この時の彼女らは相当年上に見えた。
老けてたわけじゃなく、場馴れして大人っぽく見えたせいです。
結婚してからも何度もこの話を蒸し返して私をからかう、彼女は奔放で色々な事象を楽しむ人だった。
「同じ一生なら出来るだけ楽しんで笑ってた方がいいじゃない。だから私は我慢しないの。好きなことをやるのよ」
彼女に惹かれた言葉の一つ。彼女はこの言葉を使っては、職業も頻繁に変えた。公務員をしている自分からしたら考えられなかったけれど、収入には困ってないようだったし、彼女が楽しければ良いと思った。
なにより、楽しそうな彼女を見るのが私の楽しみの一つになっていたから。
自分とは違う人種。そこに惹かれたんだろう。
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