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ギターレッスン
「良太さん、今日も帰りに寄ってくるの?」
ギターを購入してから、私の生活は仕事と家事、娘とギターになった。
仕事と家事は生きていくうえでやらなきゃならないこと。
娘のギターは人生に潤いを与えてくれるもの。
娘は、母親が亡くなった時から私を名前で呼ぶようになった。今からも親と子なのは変わらないけれど、お母さんがいない分二人で頑張ってようだから、良太さんはパパって以上に私の同士。運命共同体?のようなものね。
一理あるなと思いながらも『パパ』と呼ばれなくなったのは寂しかった。それ以上に妻を亡くしたショックで感情が麻痺していた。
もしかしたら娘は、妻のことで凹んでいる私に刺激を与えるために名前呼びをしてみたのかもしれない。
今となってはすっかり定着しているので、彼女の当時の心理がどちらでも良いなトと思えるほどには、二人での生活は安定したものになった。
「うん、寄ってくるよ。夕飯は作って冷蔵庫に入れといたから………すまないね」
「なにもすまなくなんかないのよ。良太さんが若い時に出来なかったことを今やってるだけでしょ。青春じゃん。しかも私と同じくギター。もうちょっとしたら一緒に演奏できるかな。しかもさ、夕飯まで作っていってくれるんだから何も支障はないのよね」
彼女はすっかり応援してくれているが、私はほんの少し後ろめたい。
ギターを教えてくれているのは、娘と先日行った楽器店の店長で、カッコいいと言ってしまったカレ。
カレは常連さんに『洋さん』と呼ばれている。洋平さんという名前だそうだ。
私は、私とは違う彼に惹かれ始めている。私とは違うタバコという嗜好品を吸う趣味。大きなバイクはたまの休日に乗るらしい。長髪に、たまに無精髭を生やしている。
洋さんの事を考え出すと、若い頃の時に記憶もない初恋を思い出す。
これが娘に後ろめたい原因だ。
娘と一緒に演奏したい目標もある。でも、ただあの人に会いたいという気持ちもある。
まさか40歳目前でこんな気持ちになる日が来るとは、思ってもいなかった。
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