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初めての行為は気持ちよさよりも、緊張と痛みと、自分が生きてるんだという実感だった。妻との行為とは全く違う、受け入れる側の負担が大きいからと言った洋さんの言葉は誇張でもなく嘘偽りないものだった。
痛みの合間に微かに気持ちよさを感じる。
自分ではないような湿度の高い声を出すと、「その辺りが前立腺らしいな」洋さんに言われ、そこが性感帯なのかと納得する。ゆっくりとだけれど実際は受け入れる用途ではない器官に苦しさはあるものの、洋さんが自分の中にいる現実に涙が出た。
また人を愛すことになるなんて、妻が亡くなった時は考えもしなかった。亡くなった妻と娘を想って生きていくはずだった、罪悪感からも涙が出る。
「何考えてんの」
後ろからゆっくり抜き差ししていた洋さんの声を背中越しに聞く。
「うん。色々と複雑です。洋さんとこうなったのは嬉しいけれど、私はずっと亡くなった妻と娘を愛していくものだと思っていたから罪悪感と、それでも嬉しいと思ってしまう自分と。うん、複雑ですね」
「人間だからな。さて、そろそろ終わりにするか」
洋さんの声と共に突き上げが強くなる、生理的な涙と、ひっきりなしに上がってしまう痛みと微かな快感による声。洋さん、気持ち悪くないだろうか。気持ち悪かったら次はないだろうな。これが最初で最後かもしれない。快感で身を反らしながらも妙に冷静に最期かもと考える自分がいた。
一瞬のうめき声を上げて洋さんが果てる。私も、前から白濁を垂れ流した。
「あーあ、おっさんだから一回で結構限界」
「ですね。私も受け身だったけど、無理かな」
「お前はそうだろ。受け入れる側のが負担でけーんだから。そんな狭いところに俺を受け入れてくれてありがとうな」
隣に転がった洋さんにこめかみにキスされ温かい気持ちになると同時にまた涙が出た。
「あれ?」
「ちゃんと吐き出せ」
「娘……陽菜子さんを裏切った気分で…」
「娘?奥さんじゃねぇの?」
「妻は…亡くなる時に、良太くんが私以外にも愛せる人を見つけて幸せになってくれるよう上から見てるからねって言ってくれたんです。私は、当時はそんなことあり得ないって答えたんですけれど、人の心って変わるものですね。妻を愛してるのは変わりないはずなのに」
「いい女だな。こっちが妬けるくらいだ。陽菜子か…あいつ妙に大人ぶってるから俺らのこと知っても良かったねとか言いそうだけど、実際寂しがるんだろうな」
「ですよね………陽菜子さんもお邪魔してて…親子共々お世話になってます…」
陽菜子さんは相棒を修理してもらった洋さんとこのお店が気に入ったらしく、学校帰りたまに寄っているらしい。
「ぶっ。こんなんシタ後に言う台詞じゃねーだろ。ほんとお前は読めなくて面白いよ」
面白い。洋さんはよく私をそう表現するけれど、自分では全く分からない。
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