128人が本棚に入れています
本棚に追加
猫様04 猫一倍の独占欲
屋敷に戻ると、千鶴は龍二を部屋へと連れてきた。
「ちょっと待ってて?」
そう言って龍二を残し、出ていこうとする千鶴に、
龍二はしがみついて離れようとしなかった。
「ミャーッ(千鶴、連れていけ)」
「え、ついて来るの?」
「ニーッ(当たり前)」
「分かった」
仕方がないので千鶴は、龍二を連れて後藤のもとへ向かう。
食堂に行く途中の廊下で、屋敷の者たちが、千鶴に口々に話しかけてくる。
「若姐さん、どうしました?その猫」
「はい。雨の中、動けなくなってたみたいなので、連れてきてしまいました」
「そうですか。三毛ですね…」
そう言って、龍二に触れようと手を伸ばすと、
「クシャーーーッッ」
盛大に威嚇される。
「おおっ、何とも…気が荒い」
「ふふ、男の子です。この子」
「え、珍しいですね?あまりいませんよ?三毛のオスは」
「そうですね。男の子だからでしょうか、少し凛々しいです」
千鶴は、食堂に行くまでに、屋敷の者たちに何かと声を掛けられる。
それは、龍二という『仔猫』を抱えているから、その話になるのだが。
龍二はここでも独占欲を爆発させる。
「シャーッ(触るなっ)」
近づいてくる若い衆に、ことごとく威嚇を放つのだが、
やはり、外側の見てくれは小さな三毛の仔猫。
ただただ可愛い威嚇でしかなく、
人間には到底分からない、可愛い独占欲だった。
あと少しで食堂という所で、今度は拓海と出くわした。
「あれー、千鶴ちゃん。どしたの?その仔猫」
「あ、拓海さん。雨で身動きが取れなくなってたんです」
「ふーん」
拓海が龍二に顔を近づけると、
「ニ゛ャゥッ!!(寄るなっ!!)」
龍二の可愛い猫パンチが、拓海の鼻に直撃する。
だが、ジャレパンチではなく、本気パンチだった為、
「イダダダダッ」
拓海の鼻に、見事に爪が一本引っ掛かり、皮膚を引っ張る。
小さな仔猫の爪は、細くて鋭い。
しかも、力加減が分かっていないので、なかなかに痛い。
「あーっ、拓海さんっ、大丈夫ですか!?」
龍二の爪を外そうとする千鶴だが、
龍二は、さらにもう一本の腕を振り上げ、
爪をぐわっと全て剥き出しにして、拓海の鼻目掛けて振り下ろした。
「ぐわぁぁぁぁっ」
「ああっ、やめなさいっ」
「ニャーッッッ(日頃の恨みだっ)」
ザシュッという、効果音が聞こえてきそうな龍二の攻撃は、
拓海の顔に、見事なひっかき傷を作った。
最初のコメントを投稿しよう!