恋人のふり

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 颯⽃ならいくらでも恋⼈役をしてくれる⼥性がいそうだと思った。  彼はあっさり答える。 「君だったら⼤丈夫そうだからな」 「⼤丈夫そうとは?」 「ミイラ取りがミイラになるっていう⼼配はなさそうだということだ」 (それって、私が颯⽃さんを好きになることはないってこと? まぁ、こんなハイスペックな⼈と⾃分がどうこうなるなんて考えられないから、それはそうかもしれないけど……)  彼の言葉に納得する気持ちとモヤモヤする気持ちが生まれた。  でも、颯⽃が⼀花に恋⼈役を頼んでくるほど思い詰めているということは、事態はかなり深刻なのかもしれない。  そうだとしたら、警備してもらえるのはありがたい話だと思う。  また、花を台無しにされても困るから。 「わかりました。具体的になにをしたらいいんですか?」 「引き受けてくれるんだな。ありがとう。とりあえずは、休⽇に外⾷したり、買い物したりというように、⼀緒に出歩いてもらうだけでいい」  明るい表情になった颯⽃に向かって、⼀花はうなずいてみせる。 「それくらいでいいんですね。じゃあ、警護をしてもらえるのは助かるので、報酬なんていりません」 「それでは、⺟に⾔って、いろいろ仕事の便宜を図ってもらうようにしよう」 「ありがとうございます」 「いや、こちらこそだ。犯⼈の⽬星はついてるんだ。だから、そんなに⻑くはかからないはずだ」  颯⽃はそう⾔って、⼿を差し出してきた。  取引成⽴とでもいうように。  ⼀花がその⼿を握ると、⼤きな⼿が握り返してきて、ドキッとした。 「まぁ、これから楽しみね!」  突然、貴和⼦が現れて、華やいだ声を上げた。  また、陰から⼆⼈の様⼦を窺っていたらしい。  颯⽃があきれた顔でたしなめる。 「⺟さん……。おもしろがってる場合じゃない」 「あら、ごめんなさい。それはそうね。⼀花さん、お花がだめになって、残念だったわね」  貴和⼦は素直に謝った。  お茶⽬でにくめない⼈だなぁと⼀花は微笑む。 「仕⽅ないです。颯⽃さんに犯⼈を捕まえてもらって、ギャフンと⾔わせてもらいます!」 「ギャフン……。ハハッ、任せとけ」  ⼀花の⾔い⽅がツボに⼊ったようで、颯⽃は笑いながら、請け負った。  彼⼥は顔を⾚らめる。  師匠の⼝癖がうつって、たまに古めかしい⾔い⽅をしてしまうのだ。  気を取り直して、⼀花は什器を持ち上げた。
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