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「よし!」
しばらく考えて⽅針を決めた⼀花は低めのスタンドを取り出した。
そこに花を飾り始める。⽩や⻘や淡い⾊の花をメインに使って。
颯⽃が⾔った通り、途中で総務の⼈が来て、もらった名刺のところに請求書を送ることになった。急な話なのに、テキパキしていて感じがよく、⼤きな会社は違うとまた感激した。
これでタダ働きにならずに済むと安⼼する。
憂いが晴れて、⼀花はせっせと装花を作っていった。
「うん、いい感じだわ」
「そうですね。なかなかいい」
ディスプレイを⾒てひとり悦に⼊っている⼀花の後ろから声がして、彼⼥はびくっと⾶び上がりそうになった。
いつの間にか現れた颯⽃だった。
「あ、ありがとうございます」
「だが、まだこんなに花が残っていますが、使わないんですか?」
動揺している⼀花に颯⽃は不思議そうに尋ねた。
彼が指し⽰した台⾞の上には、⾚や⻩⾊の鮮やかな花があった。
「店舗と違って、オフィスなので、あまり派手な色で飾り⽴てるのもふさわしくないかと思って」
「それはその通りですが、ほかに使うあてはあるのですか?」
「……ないです」
半分近くでも使わせてもらえたんだから、それだけでも有難いと⼀花は思っていた。
しかし、余った花のことを聞かれて、残念そうにうつむいた⼀花だった。が、彼の次の⾔葉にぱっと顔を上げた。
「それなら、ここに持っていって⽞関を飾ってもらえませんか? ちょうどそんな暖⾊系の⾊味が好きなはずだから」
「え?」
「⾃宅なんです」
「えぇ!?」
颯⽃は⼿帳にさらさらと住所を書いて、⼀花に渡した。
それはここからそれほど離れていない⾼級住宅街だった。
「⺟が花を好きだから喜ぶと思います。あぁ、このお代は私が個⼈的にお⽀払いしますので、請求書はこちらに送ってください。なにかあったらここに電話を」
個⼈のメールアドレスと電話番号を書き⾜して、再度メモを渡してきた颯⽃を⼀花はしげしげと⾒上げる。
こんなに親切にしてくれる彼の意図がわからなかったのだ。
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