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「あ、ちょうど来たわね」
そうして連絡先を交換し終えた直後。まるでタイミングを見計らったかの様にタクシーが来た。
「それじゃあ私はこれで……」
そう言って帰ろうとしたところで樹里亜さんが「……やっぱりついて来てもらえないかしら?」と言ってきた。
「え」
「ほ、ほら。夜道に女の子を一人で帰らせるワケにもいかないでしょ? お礼もしたいし」
「い、いやそれは今じゃなくても……」
それこそ次にアルバイトが重なった時でもいいと思いながら話していると……。
「――」
タクシー運転手のおじさんからの視線がやけに気になった。
うん、これは「どうでもいいから早くしてくれ」って言っているヤツだ。まぁ、当たり前か。
「分……かりました」
でもまぁ、私が拒否したところで樹里亜さんも引かないという事は目に見えているし、樹里亜さんの言い分も分かる。
「それじゃ、家まで見送ます」
仕方がないのできちんとこの目で最後まで見送る事にした。
「――どちらへ」
やっとこさタクシーに乗りこむと、樹里亜さんはスマホを見せ「ここの……」と説明し始めた。
「……」
長くはなりそうにないけれど、何となく個人情報だと察した私は外の景色を見て待つ事にした。
――それにしても……今日は随分と嫌な天気だ。
もう夜遅いというのに今も空は厚い雲で覆われていて……早ければ今日中。もしくは明日雨が降るのではないだろうか。
正直、偏頭痛が辛いから雨ってあまり好きではないのだけど。
「――分かりました」
そんな事を考えていると、ようやく話が終わったらしく樹里亜さんがシートベルトをした。
そのタイミングでチラッと見えたタクシー運転手の表情が一瞬。
ほんの一瞬だけなぜか強張っていた様に見えた。でも、それは本当にほんの一瞬で……すぐに何事もなかったかの様に元に戻っていた。
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