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「またミルクに膜が貼っちゃった。おばあちゃんならこんなことなかったのに。中学生にもなって僕ってだめだな」
おやすみ前のホットミルクを温め損なった隆くんが、ため息をついてスプーンで膜をすくう。
「これ嫌いなんだよな。でも捨てたら、死んだおばあちゃん、もったいないって怒るだろうな」
(しょうがないわね、私の出番だわ)
子猫のシロが、隆くんの持っていたスプーンをペロペロと舐め出した。
「シロ、食べてくれるの、ありがとう! シロはほんとに優しいな、おばあちゃんみたいだ。スプーンなめたのママには内緒だよ」
隆君は一生懸命に水道でスプーンを洗っている。
隆くんは知らない。猫のシロが、死んだおばあちゃんの生まれ変わりだってことを。
◇
今日はガールフレンドの晴美ちゃんが来ている。
大学に入ってから、もう長い付き合いになるのに、キスもしてくれないから、晴美ちゃんちょっと焦れてる。
でも奥手の隆くんは気づいていない。
話し込んですっかり遅くなって、もう終電の時間。
晴美ちゃんは電子レンジに、隆くんのお休み前のホットミルクをセットする。
「ミルクは温めすぎないでね。膜が張るとまた爆発するわよ、必ず500Wで様子みてね」
「ハイハイ、気をつけます。もう遅いし駅まで送るよ」
2人は笑いながら玄関に向かう。
(わたしの出番ね)
電子レンジをスイッチオン。ただし500Wじゃなくて1000W。
バン!
「え、何?」
「何の音だ?」
慌てて戻ってくる2人、電子レンジの中でミルクが爆発したのだ。
「きゃーミルクが! なんで1000Wになってるの?」
「シロがスイッチに触ったのかな?」
「中がめちゃめちゃよ、早く掃除しないと、こびりついて大変だわ。私すぐ掃除する」
「掃除は僕がするよ、もう電車の時間が……」
「ここまでひどいと隆くんには無理よ。そのかわり今晩泊めてね、私タクシー代ないから」
「え?」
(後はよろしくやってください)
シロがくるりと顔を洗った。
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