貴族とは

1/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

貴族とは

10分くらい経っただろうか。中々兄が帰って来ないな、と思いながら3人で待っていると、部屋の扉が豪快に開かれて、兄が姿を現した。 「ラゼお兄ちゃんっ!心配したんだからねっ!」 妹はさぞ、ご立腹なようだ。弟も頬を膨らませて威嚇している。僕だって心配したが、口にはしないし、表情にも出さない。何故か。からかわれるからだ…。 「ごめん、ごめ〜ん☆」 僕は兄のこういうテキトーなところが本当に好きでは無いが、兄のことが嫌いかと言われるとそうでは無い。 「ベティちゃんも心配したぁ?」 わざわざ僕の目線に合わせてまで、覗き込んで問うてくる。腹立つ…。「別に。」と冷たく返す。 「相変わらず冷たいな〜。」 とヘラヘラ笑っている兄をよそに、もう少しで来るか、と思いながら時計を眺める。部屋の扉が壊れそうな勢いでバタンっ!と音を立てる。おいおい、本当に壊れるんじゃないか…? 「あんたら!そこに座りなさい…!」 こいつはクソみたいな僕達の母親である。 「長男、次男、三女、五男…。」 こいつら“Follow派”と言われる家族らは、決して僕達を名前では呼ばない。時々叱る時とか、名前で呼ばれることもあるが、いい気分はしないから、別に呼ばれなくてもいい。「やっほ〜。」と言いながら扉から顔を覗かせているのは、先程僕が帰った時に現れた長女である。ハレノヒ…といったか。興味が無いので覚える気もないが。 「長男、ラゼルト・イーブル…。」 母親が低い声で兄を呼ぶと、兄は「は〜い。」と呑気な返事している。 「あんたは門限を守らなかったから、今日はご飯無しよ。」 そう、門限を破ったら飯抜き。下手したら餓死する。だからこれだけは守らないといけないのに、破ったやつが隣にいる…。 「はいはい、分かってるよ〜。」 いつもに増して呑気だな。まぁ、いつも呑気なことに、変わりは無いが。 「次男、イベティフル・イーブル…。」 フルネームで呼ばれるのは、あまり好きでは無い。そして、彼女は僕らの名も覚えていないのか、何やら紙を見ながら、名前を言っている。非常に胸糞悪い。 「あんたは門限ギリギリだったから、水だけよ。」 水だけでもくれるだけマシである。水が無ければ4〜5日で死んでしまうからな。母親の後ろからペットボトルの水が飛んでくる。もう少し優しく渡して欲しいものだけれど。 「三女、ディリーフィショア・イーブル…。相変わらず名前長いわね…。」 いや、あんたが付けた名前だろ…。呆れてものも言えない…。妹は母親をじっと見つめている。 「そして、五男のマイアズマ・イーブル…。」 2人は今日、バイトも学校も何も無かったから、何か貰えるはずだ。 「なんかムカつくからパンの耳でも食っときなさい!」 相変わらず無茶苦茶な理由だな…。でも、2人は食べ物が貰えるだけで嬉しそうに目を輝かせている。2人が嬉しそうならいいか…。母親と長女が出て行ったことを確認して、ふぅ、と溜め息をつく。 「ねぇ、ベティ…水一口くれない…?」 兄が懇願してくる。「全部飲むなよ。」一応念押しをしておいて、渡す。兄はありがとう、と言いながら飲み始める。 姉達は、こんなに自由に食べ物も食べれなくて、飲み物も無い、なんて、考えられるだろうか? きっと考えられないだろう。なんてったって、あいつらは貴族で、僕達は平民扱いなのだから。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!