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“バイト”
いつものように夜を過ごし、いつものような朝が来る。時の流れも分からず、ただボーッとする。
「お兄ちゃん達!バイトじゃないの?」
妹が体を揺すって起こそうとしてくる。いつものように妹はボサボサのロングヘアが床に着けている。綺麗な紫髪だったはずなのに、今では黒髪に見える程である。赤い瞳は相変わらず、ランランと光り輝き、あの気に食わない母親と同じように宝石みたいだと、つい見惚れてしまう。
「バイト遅れるよ〜!?」
自分もパジャマの癖して、僕達を揺すり起こす。眠い目を擦りながら起き上がると、そこには姉がいた。
「あのっ、ごめん。私…。」
この姉は、冒頭に出てきた悪魔とは、違い、僕達にも優しくしてくる次女、アメリアである。いつもご飯や水を持ってきてくれて有難いのだが…。「大丈夫なのか?」と僕が問うと、アメリアは、俯きがちに応える。
「やっぱり、私放っておけなくて…。こう見えて、姉…だし。」
もごもごと喋る姿は姉っぽくは見えないが、やはり言動はハレノヒとかいう奴とは大違いで、姉っぽさが丸見えである。僕らが食べ終わると、アメリアは、明日も来るね、と言って下へ降りて行った。
「アメリお姉ちゃんは、なんでBreak派に来ないんだろう…?」
妹はふと、思ったのか、ボソッと口にする。
「アメリ姉さんはビビりだから、家族に嫌われるのを怖がってるんだよ。」
と、弟が厳しめに言う。
「我が家の“中立”だね♪」
兄がにやけながら言う。中立か。簡単に言うけど、実はそう簡単じゃ無いんだろうな、というのは僕でも分かっている。だから、アメリ姉は、素直に尊敬できる。
そういえば、何か忘れているような…?
「あっ!お兄ちゃん!時間っ!やばいよ〜!」
妹の声に気圧され、僕達は急いで準備をする。“バイト”が始まる…。
「やっぱりバイトはいいね〜♪」
兄が呑気に言う。確かに、外の空気を吸える、丁度いい言い訳にもなるから、僕もバイトは好きだ。
「今日はなんだっけ。」
弟が後ろからひょこっと顔を出す。
「裏山の村に熊が出没したんだと。」
僕は今日の仕事内容を説明する。
「熊狩り…ッ!?怪我しないでね、お兄ちゃん!?」
相変わらず心配性な妹である…。ふと、空を見つめてみると、何かが飛んでいる。…え?何あれ。と思うと同時に、僕の顔面に“それ”が当たる。「あ、いたっ…。」“それ”は、何かのぬいぐるみだった。
「熊さんのぬいぐるみ?」
妹が不思議そうに見つめる。これは…持ち主を探すことになりそうだ…。
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