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「アキラがくれるものが一番好き」
「…………」
クッキーとモグモグ戯れるユウヒを前にして俺は言葉が出ない。
嬉しい事を言われたような、悲しい現実を突き付けられたような。
ユウヒが俺を嫌いにならないと言うのはつまり、俺という人間がどうのこうのではなく、単純にお菓子を作ってくれて、単純にそのお菓子が好きと言うだけで。
主体はお菓子だ。俺じゃない。
クラスの女の子の話もそうだろう。
ユウヒはこの見た目で周りの奴らを騙すから、飴やらチョコやらを持ち込んでいる女子達からしょっちゅうおすそ分けを貰っている。
そこで恵んでもらった物よりも、ユウヒの好みを完全に把握している俺が献上しているモノの方が、価値は上。
俺の価値じゃない。お菓子の価値だ。
俺が張り合うべき対象ってなんなんだろう。
「お前にとって俺の価値はお菓子で決まるのか……」
いや、知ってたけど。
ユウヒにとって俺の存在なんて所詮は都合のいい男。なんでも言う事を聞く下僕だ
いよいよ悲しくなってきた。そろそろもう泣いてもいいかな。
いい加減グズッと鼻でも啜りそうな状態になってくる。
ところがクッキーを持った手にそっと温かさを感じ、俯かせていた顔を上げた。
なぜかユウヒによって取られたこの手。
そのままクイッと引っ張られたかと思えば、俺に持たせたクッキーにユウヒがかぶり付いてきた。
「ッな……」
ビックリする。本当に心臓に悪い。
眼前の光景は一体なんだ。クッキー食いたきゃ自分の手元にあるの食えよ。
どうしてわざわざ俺の手から食うんだヤギかお前はヤメテくれ。
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