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「……で?」
「うん?」
「それのどこが朝っぱらからシフォンケーキ作ってくる理由になるんだよ」
「だからユウヒのために焼いてたんだっての。夕べスゲエ眠そうにしながら明日学校で食べたいって言ってたから」
幼馴染の頼み事を断る理由なんてない。聞き入れるのは至って当然の事だ。
それくらいに割り切らなければやっていられないこの関係。
横にいる斉藤の白い目は気にしない。束の間の睡眠に入る体勢をグタッと取った。
机に突っ伏し、目を閉じる。早朝に削ってしまった眠りを今ここで少しでも取り戻す。
「……幼馴染の尻に敷かれすぎだろ」
机の横からは斉藤がボソッと投げてくるけど意地でも気にしない。
幼馴染リクエストのシフォンケーキを朝っぱらから焼くため、今朝はいつもより三時間早くに目覚ましをセットした。
まだ暗いうちからひっそりと起きだし、ぼんやりした頭でキッチンにて粉を振るい出す高二男子。惨めだ。
隣の家の二階にある一室ではその頃、あいつが人の気も知らずにスヤスヤと眠りについていたはず。
きっと俺のことはパシリか何かだと思っている。もしかしたら下僕よりさらに低い地位に置かれているかもしれない、絶対そうだ。
でもいい。全然いい。なんだかもうどんな仕打ちだろうと慣れた。
女王様みたいなユウヒの望みを叶えるためなら、必要になる全てをなんだって差し出してやる。
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