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ロッカーからケーキの入った箱を取り出した。
旺盛な食欲にまみれた珍獣の視線を背後に感じて落としたこの肩。
振り返って手渡そうとすれば、それよりも先に何を言うでもなくユウヒの腕がスッと伸びてくる。
指先が触れた瞬間、俺は思わず息を止めたけど、ユウヒの目は相変わらず箱に一直線。
俺達の関係なんて所詮はこの程度で仕上がっている。
一人分のサイズでは足りないのも分かりきっているから、シフォンケーキはユウヒ仕様でちょっと大きめに焼いてきた。
その箱を両手に抱え、無言で俺に背を向けたこいつ。
「え……おい、どこ行くんだよ」
「保健室」
そうですか。って、違うだろ。
こいつは珍しく遅刻しないように頑張って来たかと思ったら。
ケーキ目当てかよ。バカなのかお前。最初からサボる気満々だ。
とりあえず食うだけ食ったらそのまま保健室で二度寝しようとか考えているに違いない。
「待てコラ。田中だってそろそろ出席日数ごまかしてくれなくなるぞ」
しかし今日こそはこのまま見送る訳にはいかない。
咄嗟にユウヒの肩を後ろから掴んだ。
そろそろユウヒには進学危機が迫ってきたなと、俺の中で不安の種が芽を出したのは二ヵ月ほど前。
それ以来、毎日毎日遅刻してきたユウヒを職員室に連行し、担任の前で無理矢理頭を下げさせて一緒にペコペコ平謝りするのが俺の日課になってしまった。
まだ若くてそこそこノリのいい担任教師、田中。
なぜかユウヒ本人ではなく俺を一通りいじめ倒すとどうやらそれで気が済むらしく、名簿上でのユウヒはこの二ヵ月間まったくの無遅刻無欠席だ。不正も甚だしい。
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