第10話 模擬戦

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第10話 模擬戦

謁見の間に入った。 広い空間は人が大勢入れそうな場所で、床の中央には縦長のじゅうたんが敷かれており奥に立派な椅子に座った壮年が見える。 王冠を頭に乗せて、髪は銀色、毛皮のマントを羽織っていた。 「失礼します」 アスマは頭を下げ一礼し入っていく。 「呆けてないで、私たちも一緒に行くわよ」 ウェンディに言われアスマとレーシャ王女についていく。 王様の数メートル手前で立ち止まる。 「そちらが例の少年か。そなた名前を何と申す」 「僕はトワ・ウィンザーと申します。隣の女性はウェンディと申しまして僕の恋人です」 アスマの真似をして、ひざを折り顔を下に向けて名乗る。 「勇者パーティに加わるという事で良いのか?」 王様に言われて断れるわけがない。 断ったら恐らく何かの処分が下される?のだろう。 「お待ちください、陛下」 「勇者アスマかどうした」 「わたくし・・俺は納得していません。力を試してみたいのですが如何(いかが)でしょうか」 「成程、一理あるな。では演習場で模擬戦をしたらどうか」 「有難うございます」 ***** 「え・・と何でこんな事になっちゃったんだろう・・」 僕は今、城の演習場に来ていた。 勇者のアスマと模擬戦をする為だ。 対人戦とかした事無いんだけど。 「わりいな。別に異論があったわけじゃないんだが、戦いたくなっちまってさ。安心してくれ、怪我してもレーシャが治せるしな」 アスマが僕に言った。 え? 戦いたいからあんなこと言ったの? こうなったからには仕方ない。 周りには王様や城の関係者とか皆見ているから。 僕とアスマは向かい合った。 「始め!」 審判の声が響いた。 始めに動いたのはアスマ。 僕の所へ素早く移動し剣を当てに来る。 『光よ・・「障壁魔法(バリヤー)」』 とにかく防御魔法を発動させた。 キィン! 剣が障壁に当たって弾かれる。 「そうきたか」 僕は右手を突き出し、魔法を放つ。 『ファイヤボール』 「うわっと」 アスマは避けようとしたが、広範囲の為避けられず 『水の壁(ウォーターウォール)』 水の壁を作って、ファイヤーボールをやり過ごした。 「「やるじゃないか!」」 『雷よ・・』 アスマは続けて魔法を行使する。 会場の上が黒い雲に包まれる。 巨大な範囲魔法。 これかなりヤバイ気がする。 僕はとっさに、会場全体にドーム型の防御魔法を発動させた。 ピカッと閃光が光り 「「ドドドドドーーーーーーン」」 凄まじい音の落雷が落ちた。 地鳴りが響く。 直撃したらやばかったな。 「「ちょーっとストップストップ!」」 レーシャ王女が間に入った。 「ちょっと、今の魔法はやりすぎよ!会場の皆が巻き込まれるじゃないの!」 「あーごめんつい、楽しくなっちゃって・・」 アスマは頭を掻いている。 っていうか今の防御魔法しなければ皆感電してたよ? 「本当ですよ。僕が防御しなければ皆さん大怪我してましたよ」 「いや、予想どおりだ。これでトワがパーティに入るのは全く問題ないよな?」 僕が防御魔法を使うのは想定内だったってこと? アスマは他の勇者メンバーに声をかける。 他のメンバー、赤い髪のマントを着た女性と鎧を着ている男性は呆れているようだった。 勇者アスマは、王様にこっぴどく叱られていた。 雷魔法で皆が大怪我を追うかもしれなかったからだ。 無謀にもほどがあるよね。 予想していたとはいえ、僕が防御魔法を張ったから良かったけど。 僕は勇者パーティに入る事になった。 断れる雰囲気ではない。 魔法の実力を認められて皆から尊敬の眼差しで見られたら。 条件としてウェンディも一緒にと言ったらあっさり認められた。 数日が経った。 キィン! カンカン! 演習場でアスマとゴダイが剣で打ち合っている。 ゴダイは勇者パーティに属しており、元冒険者で剣士だ。 アスマに剣を教えているらしい。 僕は剣さばきが見たくて見学をしていた。 何も無いって平和だな。 「トワ様、お手紙が来ていますが」 城のメイドさんが手紙を持ってきた。 手紙って誰からだろう。 宛先を見ると実家からだった。 ---------------------------------------------- トワへ 至急屋敷に戻って欲しい。 話したい事があるので至急願う。 父アーロンより ----------------------------------------------- 「短っ!」 簡略的な短い文章。 しかし、何なんだろう今更。 僕を追い出したのはそっちじゃないか。 数カ月前を思い出して僕は少しイライラしていた。 「実家に戻るの?」 ウェンディに、一旦家に戻る事を話したら実家に戻ると思われてしまった。 「違う違う、帰って来いって手紙が来たから用件を聞きに行くだけだよ。王様に許可取りに行かないと」 「私も一緒に行く!」 「・・行っても良いけど、多分つまらないよ?僕見下されてるし」 僕は実家に行くことにした。 馬車を貸し出すと王様から言われたけど、風魔法で飛んで帰る事にする。 その方が早く行けるし、早く帰ってくれるからだ。 家には長く居たくない。 『風よ・・』 僕とウェンディを、風の魔法で包み込んで上昇する。 町を見下ろしても誰も空の僕らには気が付かない。 以前も飛んだけど、鳥になった気分だ。 気持ち良すぎて癖になりそう。 「空を飛べて気持ちいいけど・・魔力は大丈夫なの?」 「うん。全然問題ないよ。僕は特別多いみたいだからね」 昼前から飛んで、数時間で屋敷に到着した。 王都から二、三時間くらいかな。 「随分早かったな。驚いたぞ。到着まで一週間はかかると思っていたのだが」 わざわざ玄関に父と母が出迎えに来た。 一体どうしたんだ? 「ささ、上がって。隣のお嬢さんは?」 「私はウェンディと申します。トワさんとはお付き合いをさせて頂いています」 軽い挨拶を交わした。 僕たちはリビングに通された。 出て行った時とだいぶ対応が違うな。 どうしたんだろう。 長椅子に座り、目の前のテーブルには紅茶が出された。 僕とウェンディは並んで座り、父は僕の目の前に座った。 「えと、聞いた話によるとトワは勇者パーティに入ったそうじゃないか。父さんは誇らしく思うぞ。それで・・だが、トワは家を継ぐ気はないか?」 「え?」 何で急にそうなるんだ? 僕たちから少し離れた位置に居た、兄たちが目を見開いて固まっている。 二番目の兄シキと四番目の兄ロドスだ。 そもそも家を継ぐのはシキ兄と決まっていたはずだけど。 「勇者パーティに入るなんて凄いじゃないか。上手くいけば爵位も貰えるかもしれんし・・」 そういう事か。 両親は昔から、地位とか名誉とかそういうのにしか興味が無かったからな。 「な、何言ってんだよ親父!俺が家を継ぐって話じゃ・・」 シキが抗議をする。 当然の反応だ。 「シキには悪いが・・諦めてくれるか?」 「な、なんでだよっ。急にトワが出世したからって・・」 シキが僕を睨む。 「えっと。急に言われても困ります。今まで僕は邪魔な存在でしたよね?」 ガタッ! ウェンディが急に立ち上がった。 「お断りします!トワは家には戻りたくないと言っていましたから」 「え?ウェンディ??」 「帰りましょ。トワ、城で勇者様たちが待っているわ」 僕はウェンディに手を引かれて屋敷を出た。 「ごめんなさい。余計だったかしら・・家を追い出しておいて、今までの事謝らないしムカムカしちゃって」 「まあ、びっくりしたけど問題ないよ」 両親は今頃呆けている事だろう。 まあどうでもいい事だけど。
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