第14話 悪事の報い

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第14話 悪事の報い

「流石、宮廷魔導士だな。中々の戦い凄かったぞ」 王様がカイに言葉をかけていた。 「いえ、そんなに強い魔法は使っていませんよ」 「どうだ、今回の事で辞めると言っていたが・・取り消してもらえないだろうか?折角の人材を失うのはもったいないのでな」 兄は家族の事を重く考えて、自分から退職を願い出ていたみたいだ。 真面目な兄らしい。 「そうだよ。また僕の練習相手になってくれたら嬉しい」 「ええ?トワの相手はもう勘弁してほしいな・・魔物相手にやってくれよ。それにしても、普通は魔力量どのくらいある?って聞かれたら正直に答えちゃ駄目だからな。敵が相手ならどうするんだ。わたしだからいいけど・・まぁ普通は何発打てるとかそう答えるものだけどな」 確かに正直に答えたら、不味いかもしれないな。 「もしかして、ステータス見えているのか?」 「あ、うん。見えてるけど・・」 「そうか・・そもそもレベルが違うのかもしれないな・・」 僕に負けたのに嬉しそうに笑うカイ兄。 兄が家に居たら違っていたのかもしれないな。 「何だか優しいお兄さんね」 「うん」 「何あのカッコいい人・・え?トワのお兄さんですって?」 ユウリが兄を気に入ってしまったみたいだ。 *****ロドス視点(トワの一つ上の兄) 「貴様らは、国外追放と沙汰があった。今すぐここから出るように」 城の兵士が来て、牢屋の鍵が開けられ外に出された。 そのまま、馬車に乗せられてどこかへ移動し始める。 「国外追放か・・。死刑よりはマシなのかもしれないな」 シキ兄が呟いた。 酷く揺れる馬車の中、俺たちはそのまま眠り込んでしまった。 ヒヒーン 馬のいななきで目を覚ました。 目元をこすって起きる。 外を見ると森の中に馬車が停まっている。 「もう着いたのか?」 「まさか・・まだ国境はだいぶ遠いはずだけど」 外に居た兵士の姿が見えない。 「一体どうした・・」 俺は言いかけて絶句した。 見回すと、兵士は落馬しており周りに数人の野盗らしき男たちが見えた。 「シキ兄外に・・」 「よし!この馬車の中の連中を引きずり出せ!」 野盗の声が聞こえた。 ガタガタ・・。 乱暴に馬車のドアが開かれた。 「と、盗賊?・・」 「ヒイィッ」 折角命が助かったのに・・俺たちはここで死ぬのか・・。 恐怖のあまり体が硬直する。 今までの人生が走馬灯のように思い出される。 ああ・・短い人生だったな。 そういえば、トワには悪い事をしちゃったな・・今更だけど。 「「兄さん!」」 トワの声が聞こえた気がした。 「俺たちもう死んじゃったのかな・・見えないのにトワの声が聞こえるなんて・・」 「ロドスもか、幻聴が聞こえてくるなんてお迎えが来たのかもしれないな」 「今助けるから!」 「『催眠魔法(スリープ)』」 盗賊達がバタバタと眠りについていく。 馬も眠ってしまったようだ。 空を見上げると、トワが馬車の上空からゆっくりと降りてきていた。 「えっと、トワか?本物?幽霊じゃないよな?」 ロドス兄が言う。 「何寝ぼけてるの兄さんたち。僕は生きているし・・あ、空から降りて来たから天使と間違えちゃったとか?」 僕は兄さんたちが国外追放になったと聞いた。 何となく気になって後をつけてきていたのだ。 見ると、野盗が周りを取り囲み馬車を止めていたので慌てて割り込んだのだ。 あ、兵士が落馬して倒れてる。 野盗に数人に襲われたのか。 死んでいないよね? 『回復魔法(ヒール)』 僕は兵士の体に魔法をかける。 淡い光に包まれて傷が癒え、兵士は意識が戻って目を覚ました。 良かった大丈夫そうだ。 「あれ・・野盗に襲われて・・」 「貴方に回復魔法かけて傷を治しておきました。多分大丈夫だと思いますけど・・」 「え?そうでしたか。有難うございます」 馬も大丈夫そうだ。 よく逃げなかったな。 「トワ、魔法・・」 シキ兄が驚いて僕を指さしていた。 「ああ、うん。使えるようになったんだよ」 「そ、そうか」 国境の村まで僕は兄たちを送り届けていた。 また野盗に襲われることはないだろうけど念のためだ。 後ろから風魔法で飛んでゆっくりと後を付いて行った。 「トワ様、護衛ありがとうございました」 兵士に感謝された。 「兄さんたち反省してる?」 「ああ、申し訳なかった・・許されるなら実家に帰りたい・・」 「本当にごめん!俺たちどうかしていたみたいだ」 「そう。だからと言って、王様が下した処分をどうこうできる立場じゃないし実際レーシャも酷い目にあったのは事実だしね」 「お願いだ。俺たちを見逃して、実家に帰らせてもらえないだろうか?」 両手を合わせてシキ兄が僕に懇願してきた。 「俺からも頼む」 ロドス兄も手を合わせた。 はあーーっ 僕は深いため息をつく。 「僕が助けたからって、何を勘違いしているのか知らないけど・・罰として刑はきちんと受けてもらわないとね・・・大変だろうけど、頑張れば。後は知らない」 思っていたよりも僕はレーシャの事で腹を立てていたらしい。 自分でも驚くほど同情する気持ちが湧かなかった。 兄たちをあえて助ける必要は無かったかもしれないな。 いや、死んだほうが楽だったのかも。 隣国にも兄たちの事は知れ渡っているので、まともな生活は出来ないだろう。 僕は兄たちを残し、城へと風魔法で一気に飛んでいった。 *****アーロン視点(トワの父親) しばらく前に遡る―――。 「何をしでかしているんだあいつらは・・・」 リビングでわたしは頭を抱えていた。 息子のシキとロドスが王女を誘拐し、襲ったらしい。 俄かには信じられなかったが、宮廷魔導士のカイが手紙に書いていたのだから事実なのだろう。 今は牢屋に入れられていると。 「旦那様、メイドが辞めたいと申しております」 執事がわたしに報告をしてきた。 ここ数日、屋敷に勤めているメイド達が退職し始めた。 無理もないだろう。 そんな折、一通の手紙が届いた。 「ゼノベア城からの手紙?」 蝋封は間違いなく王家の紋章が付いていた。 震える手で封を開けると―――。 「・・・ウィンザー家の領地没収、及び爵位を剥奪(はくだつ)する・・」 一番恐れていたことが起きてしまった。 息子たちの心配よりも明日は我が身・・。 これからどうやって生活していけばいいだろう。 「実家に帰らせて頂きますわ」 妻のシイラが言った。 貴族の地位を剥奪されたと伝えた途端、離婚すると言って屋敷を出て行ってしまった。 (シイラ)はわたしを愛していたのでは無かったのだろうか。 「地位と金か・・」 わたしは項垂(うなだ)れて引き止める気力も残っていなかった。
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