第17話 記憶を探しに

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第17話 記憶を探しに

「トワ、トワ、・・」 誰かか呼ぶ声が聞こえる。 誰だっけ? 目を開けると目の前に悲しい顔をした少女。 青い髪の水色の瞳。 懐かしい感じがするけど・・誰だっけ? 「目を覚ました・・良かった」 どうやら僕は広い部屋の中に居て大きいベッドに寝ていたようだった。 やたらと大きいベッドだ。 「ここ・・どこ?」 「え?」 「トワ?ここはお城よ?どうしちゃったの?」 えっと・・参ったな。 記憶が無いみたいだ。 記憶喪失っていうんだっけ、こういうの。 「君は?」 「・・・・」 部屋の温度が一気に下がった気がした。 青い髪の少女の他にも、メイドさんやら男の人とか数人が居るのだけどみんな見覚えが無い。 銀髪の上品な雰囲気の年の近い少女も僕の近くに近づいてきた。 「トワ、わたくしレーシャです。隣はウェンディ本当に憶えていませんの?」 「俺はアスマだ、後ろの赤い髪の女はユウリ、向こうの男はゴダイ・・分からないか?」 代る代る声を掛けられた。 アスマは心配そうに僕を見つめている。 「英雄がこれじゃ・・しばらく休んだ方が良いな・・」 僕は何者なのだろう。 色々と話を聞くと、魔法を使えるとか強いとか・・信じられないけど。 そのうち実家に帰った方が良いんじゃないかと言う話も出始めた。 「反対です!実家では以前酷い目にあったことがあるから・・今回もまた何かあったらどうするのですか?」 ウェンディさんは僕に親身になってくれる。 色々事情を知っていそうだし。 「迷惑じゃなければ、ウェンディさんと一緒に居たいです」 彼女は苦笑いをして、僕の頭を優しく撫でた。 不思議と心が温かくなる。 レーシャさんも、僕の事を気にかけてくれるけどウェンディさんとは違う感じだ。 「じゃあ、良ければ最初の町に戻ってみない?思い出すかもしれないし」 ウェンディさんの提案で王都から離れたプノン町へ行くことになった。 何でも最初にウェンディさんと出会った町との事だった。 「わたくしも・・」 とレーシャさんが言いかけたが、アスマが制止した。 レーシャさんに知り合ったのは最近の事なので、先ずはウェンディさんと・・という事なのだろう。 ウェンディさんが僕をぎゅっと抱きしめる。 僕の胸がどきどきと高鳴っている。 心地よい気持ちは泣きそうになるほど懐かしい。 胸がキューっと締め付けられている。 明日から馬車でプノン町へ行くと言っていた。 二人きりだけどいいのかな。 でも僕は何も彼女の事を知らないけれど不思議なほど信じられる。 (多分僕はウェンディさんの事が好きだったんだ) 憶えていないけど、そんな気がしていた。 小さな町だった。 僕は王都のお城から馬車に乗ってプノン町へとやって来ていた。 馬車での移動は疲れたけど、不思議と安心していた。 「ウェンディさんのお陰なのかな・・」 僕は呟く。 僕が彼女の顔を見ると僅かに微笑んで、少し寂しそうだった。 「今日泊まるところはここね」 「ミラージの宿」看板にはそう書かれてある。 「いらっしゃい。あらお久しぶりだねぇ」 愛想のいい宿屋の女将さんが話しかけてくる。 会釈して、中に入った。 「あら、どうしたのかしら?」 女将さんが心配そうに聞いてくるが 「・・後でお話しますね。取り合えず今日の宿お願いします」 「はいよ」 察したのか特に話しかけてこなかった。 先に僕に部屋に行っててほしいとの事で二階の指定された部屋に入った。 *****ウェンディ視点 一階のカウンターで 「女将さんどうしましょう・・」 「さっきの事かい?」 「実は彼記憶を無くしちゃって・・部屋分けたほうが良いですかね?」 「う~~~ん。彼に聞いてみたらどうだい?一緒でも大丈夫なら一緒にするとか・・」 「そうですよね!」 コンコンコン。 「入っていいかしら?」 「どうぞ」 返事を聞いてドアを開ける。 記憶を無くしてから他人の距離になってしまった。 かなり気を遣う。 「えっと・・変なこと聞くけど部屋別々の方がいいよね?一応他人だし?」 トワの様子を見ながら提案してみた。 「・・・前は一緒だったのですか?」 「うん」 「なら、一緒で良いです」 思いもかけない返事。 私は飛び上がりそうになるほど嬉しかった。 彼が私を忘れていても。 私って変だろうか? 「そ、そっか。良かった」 何だか顔が赤くなってる気がする。 嬉しいんだか、恥ずかしいんだかよく分からない感情だ。 「一緒の部屋でお願いします!」 私は女将さんに言った。 「そっか。良かったじゃないか。まあ、頑張りなね」 まだ少し辛いけど・・結構辛いけど・・理解してくれる人がいると少しは楽になる。 冒険者ギルドにも行かないとだしな。 明日の事を考えると少し憂鬱な気分になった。 ノックをして部屋に入る。 返事が無くて・・そっと見るとトワは疲れて寝てしまっているようだった。 「馬車は疲れるわよね」 それ以外にも気を使って疲れているのかもしれない。 彼は変わらず優しい人なのだ。 私はトワの頭を撫でていた。 「早く会いたいなんて思ってちゃ駄目よね・・でも会いたいな貴方に」 私を好きでいてくれた貴方に。 部屋は静まり返っていて、月明かりが暗闇を照らす。 神様は信じないのだけど、神頼みをしたい気分だった。
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