第18話 教会と再会

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第18話 教会と再会

ガヤガヤ・・・。 随分騒がしいところだな。 今日は朝から冒険者ギルドと言う所へ来ていた。 以前にも来ていたらしいのだけど。 やっぱり憶えていない。 「久しぶりじゃねえか!トワ元気だったか?」 前から明るく声をかけられた。 逞しい体つきの男性だ。 この人がガイさんかな? 「ガイ・・実は・・」 ウェンディさんが僕が記憶喪失という事を説明する。 説明するたびに空気が重苦しくなった。 「ええええ?マジか・・。何て言うか気の毒としかいいようがねえ」 ガイさんは僕よりウェンディの事を心配している様子だった。 「もし・・辛かったらいつでも相談に乗るからよ・・」 何か下心で言ってる? そんな気がする。 でも、今の僕には反対出来る理由もない。 居たたまれなくなって僕はギルドを飛び出した。 後ろでウェンディさんの声が聞こえたけど、足が止まらない。 夢中になって歩いていたら、迷子になってしまったようだ。 目の前に教会があった。 「神様に祈ってみようかな」 あまり期待はしていないけど、神頼みをしてみたくなった。 あれ?何故か嫌な感じがある・・何だろう? 昔・・嫌な思い出があるのかもしれない。 教会の中に入ると、シスター以外に人が居なかった。 最前列の銅像には女の神様の像が祭られているようだ。 「女神アイリーン様は慈愛の女神さまです。今日はお祈りですか?」 優しそうな白い祭服のシスターに声をかけられる。 「はい。お願い事を叶えてもらえるかなって」 僕はお布施を少し渡した。 「是非叶えてもらえるといいですね」 シスターはニコッと笑い、見守っている。 僕は手を組んでお願いをしてみた。 『あらあら・・教会に現れるなんてね。どうしちゃったのかしら?』 神殿のような建物の中に金髪で長い髪、青い瞳の美しい女性が足を組んでソファに座っていた。 服装は布を巻いたシンプルな物。 胸元が大きく見えている。 『ああ、ごめんなさいね。わたしが間違えて記憶を消しちゃったものだから・・今、貴方が弱体化されると困るのよね。来てくれて助かったわ』 女性は僕の頭に手を触れて、何かをしたようだ。 「「ああああっ!」」 すべて思い出した! 何てことしてくれたんだ! お陰で色々大変だったんだぞ。 言いたいこと多すぎて言葉にならない。 『じゃあ、ばいばーい』 目の前の女神に文句を言う前に、僕は再び真っ黒い穴に落とされた。 「はっ!」 「どうかされましたか?」 シスターに声をかけられた。 「あ、いえ。大丈夫です」 記憶が戻った。 すべて思い出した。 ったくあの女神め! 余分なことをしてくれたもんだ。 思い出して怒りが込み上げてきた。 バタン! 教会のドアが開いた。 「こちらに15歳位の少年はいらっしゃいませんか?」 愛おしい聞きなれた少女の声。 僕は振り返る。 「ウェンディ!」 彼女は大きく目を見開いていた。 「え・・もしかして思い出したの?」 僕は駆け出して、彼女に抱きついていた。 教会の中で、ぎゅーっと僕はウェンディを抱きしめていた。 「・・トワ良かった・・」 「きっと女神さまにお祈りが通じたのですね」 後ろでシスターが泣いていた。 いや絶対違うからね? 「ずっと・・記憶が戻らないと思ってた・・」 ウェンディの水色の瞳から涙が溢れている。 「ごめん・・思い出せなくて・・」 「・・いい・・思い出してくれたから・・」 僕たちはミラージの宿に戻った。 女将さんは喜んでくれて、何故か宿に来たガイは喜んだけど・・残念そうだった。 やっぱり下心があったのかも。 今夜はゆっくりウェンディと居よう。 部屋で、僕は記憶が無くなる前の事を思い出していた。 女神は争いが好きでわざと争わせていると言っていたような・・・。 人間を手駒としか見ていないのだろう。 かと言って、その事を他の人に言うのも(はばか)られるな。 「トワ・・いい?」 「良いって何を?うわっ」 ウェンディが急にキスをしてきた。 寂しかったのかもしれない。 僕が逆の立場だったら、寂しくてどうにかなってしまうだろうしな。 「まったくしょうがないな。ウェンディは」 彼女の髪を撫でて、僕も頬にキスをした。 「お世話になりました」 「また、いつでもいらしてくださいね」 翌日、城に戻るべく宿を後にした。 「ねぇ、馬車でゆっくり帰らない?」 「え?でも魔法の方が速くない?」 「ん~ゆっくり帰るの~~」 ウェンディが珍しく駄々をこねる。 「そうだね。ゆっくり帰ろう」 城に帰ったら、二人きりになれないからな。 レーシャもいるし。 城の人達はそんなに早く記憶が戻ったなんて思ってもいないだろうし。 「観光しながらのんびり行こうか」 「やったーー」 ここの所忙しかったから休養も必要だよね。 ウェンディも僕の事で精神的に疲れているだろうから。 途中に温泉とかあってのんびり出来たらいいな。 そんな都合よくないか。 「次の町の名物は何だろうね」 「果物が美味しいって聞いた」 「へえ~」 僕たちは馬車に乗り込んだ。 次の町まで外の景色を見ながらのんびり過ごす。 他愛もない会話がこんなにも楽しいなんて。 二人きりの貸し切り馬車で良かった。 「僕、記憶を無くしてた時、ウェンディの事好きだったかも」 「ええ?忘れていたのに?」 「忘れてたけど・・感情が残っていたのかもしれないね」 切ない苦しい思い。 もうあんな思いはしたくないな。 景色が徐々に移り変わっていく、のんびりとした移動も悪くないかもしれない。 「トワ・・あのね・・」 「うん?」 「何でもない・・」 ウェンディが何か言いかけて途中で止めたみたいだけど、話したくなったら話すだろう。 無理に聞き出さないほうが良いな。
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