第5話 二つの石

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第5話 二つの石

「えっと?ウェンディ?」 ウェンディと一緒に町を歩いていた。 それはいつもの通りなんだけど。 いつもより彼女との距離が近い。 一体如何(どう)したのだろう。 「何かあったの?」 「え?いつもの通りだけど・・」 いつも通りじゃないって。 少しぼーっとしていて、見ていないと危なっかしいくらいだ。 前から歩いて来る人にぶつかりそうになったり、何もないところで転びそうになったり・・彼女は僕ばかり見ているようだった。 何だか、ふわふわしていて危なっかしい。 僕が彼女を見ると嬉しそうに微笑み返してくる。 機嫌は悪くなさそうだけど。 僕たちは、冒険者ギルドで掲示板に貼られている依頼を見ていた。 「今日は依頼見るだけにしようか」 「え?」 ウェンディは、予想をしていなかったことを言われたのか驚いていた。 「え?依頼受けないの?」 「今日は仕事止めておいた方が良いと思うんだけど」 「何で?」 「だって、ウェンディ朝から変だし・・この状態で依頼受けて行ったら怪我するよ」 「・・・・」 理解してくれたみたいだ。 ウェンディは俯いてしょんぼりしている。 「あれ?今日は依頼受けねえのか?」 ガイが話しかけてきた。 「ああ、今日はちょっと・・一応見るだけはしとこうかなと」 「そうか。早いもん順だから、明日には無くなる事もあるんだよなぁ」 ガイが意地悪く言った。 せっかくウェンディを説得したところだというのに。 「おや?」 あれ?そういえば僕ってギルドの依頼まだ一度も受けたことなかったよね? 最近バタバタしていて登録だけしてたらすっかり忘れてたよ。 「Dランクの依頼って結構少ないんだね」 「・・私はBランクだから、一緒だともっと上の依頼が受けられるわよ」 「そうなんだ」 そういえば、以前言われてパーティをウェンディと組んだんだっけ。 そんな利点があったのか。 「じゃあ、少し上でも受けれるって事?」 「そうね。Cランクあたりでいくつか受ければ早くランクが上がるんじゃないかしら」 「じゃあ、明日依頼を受けようか。それで良いよねウェンディ?」 「うん」 彼女は小さく頷いて、はにかんでいる。 「・・えっと?お前らって・・何だか前と違わないか?」 「え?何が?」 「・・いや、何でもねえよ」 何のことを言っているのだろう? 僕は首を傾げて、ウェンディを見つめた。 そういえば雰囲気が柔らかくなっている気がするな。 今日のウェンディの様子がおかしいことだろうか? 彼女は頬を赤くして、俯いている。 「お前さあ・・鈍感ていうか・・まぁいいけどよ」 何故か呆れた顔でガイに言われてしまった。 次の日、僕とウェンディはテオスの森近くの畑にいた。 『火の精霊よ・・眼前の敵を滅したまえ『ファイヤボール』』 ウェンディが詠唱すると、ロッドから炎が出現しゴブリンに襲い掛かる。 そういえばウェンディの魔法を見るのは初めてだ。 今日は冒険者ギルドで、ゴブリン討伐の依頼を受けて僕とウェンディで協力して戦っていた。 僕は炎石で魔法を発動させる。 『炎よ・・』 石に手を触れていると僕でも魔法が使える。 強力な炎の柱がゴブリンの集団に襲い掛かった。 ゴブリン達はあっという間に消し炭になる。 どうやらイメージした通りの形で魔法が発動されるみたいだった。 「私の魔法いらなかったみたいね。トワの方が威力強いんだもん」 ウェンディは拗ねているみたいだ。 「え?あれは石の力だと思うけど・・」 「魔石よりトワの魔力の方が大きいんじゃないかしら」 ゴブリンは10匹いたけど、難なく倒せた。 ガイから石を貰って良かったな。 でも、他の石もあったら欲しいかも。 「ウェンディ・・因みに魔石って幾らくらいなんだろう」 「えっと~家が一軒買えるくらいとかって聞いたことある」 「ええええ?」 家って一軒幾らだろう。 ガイはこんな高価な物を僕にくれたのか。 「まじか~」 「買いたいと思ったんでしょ?」 「うん」 でも他の石もあったら欲しいな。 買えないと分かっていても。 ***** 一週間が経った。 僕とウェンディはあの幽霊屋敷の前に来ていた。 「やっぱり慣れない・・」 「ぞわぞわするのよね・・」 メイスンさんの屋敷。 相変わらず不気味だ。 「あれ?」 コンコンコン 叩き金でドアを叩いたが返事が無い。 今日は留守なのだろうか? 「開いてる・・」 「あれ、本当ね」 ドアがカギがかかってなくてドアが開いていた。 「お邪魔します・・」 僕とウェンディは屋敷の中に入ってみることにした。 メイスンさんが、万が一倒れているかもしれないと思ったからだ。 最初に会った時もだいぶ顔色が悪かったし。 「メイスンさん・・居ますか?」 僕とウェンディは広い屋敷をくまなく探す事にした。 直ぐにリビングの長椅子で眠りこけている彼を見つけた。 「メイスンさん。僕ですトワです」 声をかけるが全く反応が無い。 寝ているだけじゃないのか? 「回復魔法とか使えたらなぁ・・」 「これ、もしかして・・」 ウェンディはテーブルの上に置いてあった白い石を手に取った。 「これ回復石よ。これで何とかなるかも」 『光よ・・』 ウェンディは石を持って詠唱する。 メイスンを淡い光が包み込んだ。 「・・ん?」 メイスンが薄っすら灰色の目を開けた。 「あれ・・ボクは一体・・」 「メイスンさん起きて良かった。体調かなり悪いのですか?」 「ああ、いつも回復石で助けられてて・・ひょっとして倒れちゃってたのかな」 「僕たちが来る日で良かったですよ」 「ああ、もうそんなになるのか・・」 メイスンはゆっくりと体を起こして 「ごめん、一週間経ったけど原因を突き止められなくてね。もしかして花取って来て くれた?」 ぼくは預かっていたマジックバックを手渡した。 「わぁ、こんなに沢山すまないね。お詫びとしては何だがこの石を持っていって良いよ」 「え?でも体調が悪いからまた使うんじゃ・・」 「まだ他にもあるから一個くらい持っていっても良いよ。他の石も持っていくかい?」 僕は白い回復石と、青い水石を貰った。 回復石は出所が不明らしく、極秘で手に入れたもので神の石と言われているらしい。 水石は青いドラゴンから出現した物らしい。 「高いからって遠慮しないでくれよ。命の恩人だからね」 メイスンさんはニヤッと笑い、僕に二つの石を強引に渡してきた。 意外と強引なところがあるんだな。 本当は喉から手が出るほど欲しかったのは内緒だ。
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