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第8話 ティナの後悔
「お、おいトワ大丈夫かよ?」
冒険者ギルドで、成り行きを見守っていたガイが声をかけた。
「だ、大丈夫だよ。多分」
ウェンディが僕を睨みつけていて・・さっきから怖いんだけど。
「はぁ~仕方ないわね。トワって惚れっぽいのね。ティナって言ったかしら、私はウェンディよ。貴方、魔法使いかしら?」
「え・・とそうですわ。少し珍しい魔法を使えますけど」
とティナは前置きして使える魔法を教えてくれた。
「へえ~光魔法ね。確かに珍しいけど・・うちにはいらないわね」
ウェンディはチラっと僕を見る。
実は僕も光魔法も習得しているのだ。
「え?だって、珍しい魔法ですよね?回復魔法が使えるんですよ?他にもアンデットモンスターとかも攻撃できますし・・障壁魔法とかも・・」
「ごめん、僕それ使えるから・・それとさっきは勢いで、あんな事言っちゃったんだろうけど・・元のパーティに戻った方が良いんじゃないかな」
「・・それは・・無理ですわ」
ティナがそっぽを向いた。
何か事情があるのかもしれないけど困ったものだな。
*****
「王女だからってお高く留まりやがって・・」
俺はアスマ。
姫様と喧嘩して冒険者ギルドを出てからぶつぶつ呟いていた。
自分勝手な性格、人を見下す感じどうも好きになれない。
一緒のパーティなのだから、我慢しないといけないのだがとうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。
この世界に召喚されて数か月が経つ。
他の人達とは仲良くなっているのにあの姫様とは馬が合わない。
周りの人は姫に合わせて行動しているように見えた。
身分的に言うと、合わせなくてはいけないだろうとは思うのだけど。
俺は元々この世界の人ではない。
帰れないという思いと、日々の訓練のうっぷんがたまっているのだろう。
「まぁ、あのお姫様の事だから少ししたら城に帰ってくるか・・」
それなりに強いのだからそれほど心配はいらないだろう。
俺は一足先に王城に戻ることにした。
「そういえば、神託だっけ・・まぁべつにいいか」
そっちは勝手にやるだろう。
相手を見つけて城に連れてくるために、わざわざこんな田舎町に来たのだから。
*****ティナ視点
勢いで、勇者と別れてしまいましたが。
わたくしはトワ様が泊っているミラージの宿へ泊まることにしました。
「部屋には何もありませんわね。絵画もソファも・・」
小さいベッドに背中を預ける。
部屋も狭く少し汚い様な気もする。
庶民はこれが普通なのだろうか?
ずっと城で暮らしてきたから一般の感覚がわからない。
「わたくし我儘でしたかしら?」
実はよく分からない。
今までやる事で文句を言われたことが無かったからだ。
この歳になって初めてアスマに文句を言われた。
事あるごとに衝突をしている。
「何がいけなかったのかしら・・」
なぜ怒られるのかというそもそもの原因がよく分かっていない。
「そうですわ。相談してみましょうか」
本当は喧嘩なんてしたくはない。
そういう時は相談したほうが良いと本に書いてあった気がする。
わたくしはトワに相談をしてみることにした。
ティナが部屋に入った頃。
僕とウェンディは僕の部屋で、ベッドに腰かけていた。
「あの女と一緒のパーティなんて反対~~!」
そう言って、ウェンディは拗ねている。
彼女の様子がおかしい様な・・それは僕もか。
はぁ~。
ウェンディはため息をつくと、僕に近寄ってきた。
あれ?距離が近い・・・。
「はっきり言わないと解らないのかな・・私トワの事が好きなの」
「え?「「ええええ?」」
「そんなに驚かなくても良いじゃない」
「だって・・弟って思ってるってばっかり・・」
びっくりした。
まさかウェンディが僕の事好きだなんて。
「それで・・トワには他の女が近づいてほしくないのよ・・私の勝手な言い分だけど・・。でもトワはあの少女気に入ったみたいだし?」
「あ・・そっか。そうだよね。うん」
ドキドキして顔が熱くなる。
心臓の音がうるさい。
「えっと・・トワは・・」
じっと僕を見つめるウェンディ。
静かに返事を待っているようだ。
「僕も好き・・実は最初に見た時から・・」
僕は彼女の瞳をじっと見つめていた。
透き通った水色の瞳に吸い込まれて、引き寄せられる。
彼女は目を瞑り、僕は彼女にキスをした。
コンコンコン。
ドアがノックされて意識が現実に引き戻される。
「トワ様、話したいことがあるのですがよろしいですか?」
訪問者はティナのようだ。
僕は腰を上げて、ドアを開いた。
「どうしましたか?」
「ちょっと、ご相談が・・あら、先客がいらっしゃいましたのね。失礼しました。また後に致しますわ」
ドアの隙間から、ウェンディの姿を確認した彼女は遠慮したのだろう。
自分の部屋に戻って行った。
「邪魔入っちゃったね」
僕はドアを閉め、ベッドへと戻った。
「続きしよ?」
ベッドに戻るなり、ウェンディが僕を押し倒した。
え?
ええええ?
その後、誰か訪ねてくると困るので僕は慌てて部屋のドアが開かないように魔法をかけ、防音の魔法をかける。
ウェンディが意外と積極的で驚いてしまった。
これが普通なのか?
数時間が立った―――。
なんか、部屋もこの際一緒で良いんじゃないかな。
良いよね。
恋人になったんだし。
ウェンディは安心した様子で、穏やかな表情になっていた。
隣で、すうすうと寝息を立てて寝ている。
いつの間にか深夜になっていた。
そういえば、ティナが後で話があるって言ってたけど悪いことしちゃったな。
まあ、明日聞けばいいか。
僕はそっと部屋を抜け出し、外に出た。
この世界にも月があって煌々と町を照らしている。
満月は明るくて好きだ。
「邪魔して悪かったですわね」
振り向くと、いつの間にか後ろにティナが立っていた。
「ああ、別に大丈夫だったよ・・」
(その後・・色々あったしね)
「彼女さん大切にしなさいな。わたくしが言う事でもありませんけど」
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