第1話 異世界転生?

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第1話 異世界転生?

チュンチュン・・ 鳥のさえずりが聞こえる。 目を開けると知らない天井? あれ?でも見たことある気がする。 「えっと・・」 ここはどこだろう。 一人の部屋にしては広すぎる洋間。 天蓋(てんがい)付きのベッドに戸惑いつつも、床に足を下ろす。 床はフローリングでベッドの下には靴が置いてあった。 本当は解っている、僕の部屋だ。 壁にある丸い大きな鏡に映るのは、明るい金髪に青い瞳の小柄な少年。 僕は、佐野 十和(トワ)13歳で中一年生・・黒い髪、黒い瞳の日本人だったはずなんだけど。 もしかして、異世界転生ってやつなのだろうか? 今の僕はトワ・ウィンザー、ウィンザー家領主の5男で15歳で間違いはない。 「ん~もう!」 部屋でゆっくり落ちついて考えたいのだけど。 僕は着替えながら、愚痴をこぼした。 「何で、魔力鑑定をする当日に思い出すかな~」 ガタゴト・・ 馬車で揺られ近くの教会へ向かう。 15歳になるとみんな教会で鑑定を受けることになっている。 今日は母が一緒に来てもらっている。 父は仕事があるとかで来られないらしい。 「トワはどんな魔力を持っているのかしら。楽しみだわ」 扇子を振りながら、母シイラが嬉しそうに微笑んでいる。 母はウエーブのかかった金髪で肩より少し長く、瞳は青く切れ長の30代女性だ。 胸の少し開いたドレスを着用している。 この世界ではどんな人でも魔力を持っていると言われている。 「そうですね」 (下手なことを言わないように気を付けないと・・) 教会の入口で母と馬車を降りた。 教会にはすでに数人の人が居て、魔力の鑑定をしているようだ。 母は後ろの長椅子に座って待っていて、僕は列に並んで順番を待つ。 「火の魔法ですね。素晴らしい!」 「おおやった!」 前の男の子が喜んで飛び跳ねていた。 ようやく僕の順番が来て、黒い祭服を着た神父が祭壇に置かれている女神像に祈りを捧げる。 『女神アイリーン様、どうか「トワ・ウィンザー」この者の持っている魔法を教えて頂きたい』 「・・・あ・・え・・と」 神父は何故か青い顔をしている。 どうしたのだろう? 「まさか・・いやそんなはずは・・領主様の息子なのだし・・」 「どうしたのですか?」 母がたまらず神父に訊ねた。 「・・魔力がありません」 「え?」 「トワ様には魔力が無いようです・・」 「な、何かの間違いでは・・」 「いえ、今まで間違った事は御座いませんので・・申し訳ありませんが・・」 ザワザワ・・ 「え?魔力が無いって?」 「ありえない・・」 周囲の人たちがヒソヒソと話している。 「魔力が無い?」 僕はしばらく呆然(ぼうぜん)としていた。 母の顔色は青ざめて引きつっている。 「お母様?」 様子がおかしかったので、声をかけたが僕の声がまるで聞こえていないようだった。 「帰りましょうか・・」 母は絞り出すように声を発した。 帰りの馬車で僕と母はただ無言で座っていた。 僕と母は屋敷に戻ると、屋敷の玄関で何故か父アーロンが待っていた。 父は今日は仕事で居ないはずだったのだけど。 僕の鑑定結果が気になって帰って来たのだろうか。 母は悲壮な表情で泣いて、父に何か話している。 「貴方・・どうしましょう・・・」 「トワは自室に戻っていなさい」 父に告げられ、僕は部屋に戻った。 ベッドに仰向けになり天井を見る。 僕には魔力が無い。 流石に予想をしていなかったので、自分でも驚いていた。 僕は一体どうなるんだろう。 何だか嫌な予感がするんだけど。 翌日、父に話があると言われてリビングに行った。 父はソファに座り、リビングの奥には一つ上の兄のロドスが座っている。 僕が目の前のソファに座ると直ぐに父が話しだした。 「・・トワは屋敷を出て行くように」 「え?」 「「はぁ~」」 父は大きなため息をついた。 「お前には期待していたのに・・魔力が無いなんてウィンザー家の恥だ。今まで聞いたことが無い。親戚にもいないはずだ。わかったら明日・・いや今日中に荷物をまとめて出て行け」 「い、意味がわからないんだけど?何で出て行かないといけないの?」 「ばっかだな、そんな事も分かんねえの?」 父が他の家族には話していたのだろう。 「魔力が無い奴なんて、一族の恥さらしだろ。父様の言う通りさっさと出て行けよ!」 かくして僕は、意味が分からないまま家を追い出されてしまった。 僕は取り合えず近くの町プノンに行くことにした。 リュックを背負い、トボトボと歩き出す。 屋敷は少し森の奥にあって、不便な場所にある。 近くの町に行くには半日歩いて行かないといけない。 魔力無しか・・どうやって暮らしていけばいいだろう。 幸い少しお金を貰ってある。 しばらくは宿に泊まるのもいいだろう。 「冒険者かな・・やっていけるのかな」 考えながら歩いていると、草むらからカサカサと音が聞こえてきた。 「あれもしかして、スライム?」 透明でぷよぷよしている物体が目の前に現れる。 冒険者になるには魔物を倒さないといけない。 「やるか・・」 僕は重い腰を上げた。 これから冒険者として生きて行かないとだしな。 腰に携帯していた短剣を抜いてスライムに切りかかってみた。 「・・・えいっ!やあっ!」 スライムは飛んだり跳ねたり動き回っている。 意外と素早いようだ。 過去の記憶の中にある某ゲームを思い出していた。 現実はそううまく当たらない。 そりゃそうなんだけど。 「思っていたよりかわいくないな・・」 それでもしばらく短剣を振り回していると、運よくスライムに命中した。 サクッと切れる感覚があり、スライムの体が砂になっていく。 そこには青い石が転がっていた。 「へえ~何だろうこれ。拾っておくか」 僕はリュックの中に石を仕舞(しま)った。 それから森でスライムに会うたび攻撃してみる。 一回では無理だけど、何回かやっていくうちにコツが掴めてきたようだった。 近くの町プノンに着いた。 冒険者になれば、魔物と戦わなくてはいけない。 少しでも慣れておいた方が良いと思い、何匹かスライムと戦ったせいで少し疲れてしまった。 「少し動き過ぎたかな・・」 歩くだけでも疲れるのに、動き回っていたので汗だくだった。 とにかく今日泊まるところを探さないと。 「ちょっと困るんですけど」 「いいじゃねえか。悪いようにはしねえからさ」 前の方で、若い少女の声がした。 ポニーテールで鮮やかな青色の髪の少女がチンピラ風の男性に絡まれている。 右手には杖を持って、茶色いローブを羽織っているので魔法使いだろうか。 ぱっちりとした水色の瞳、身長は160センチくらいで20代前半くらいに見えた。 僕は少女と偶然目が合った。 助けてくれと目で訴えてかけられる。 えええ?? 無視するのも気分が悪いし、仕方ないな。 「ごめんね。待たせたかな?」 知り合いのふりをして近づいた。 僕は少女の手を取って、走り出した。 しばらく男が見えなくなるところまで移動した。 「・・ありがとう。助けてくれて・・しつこくて困っていたの」 「どういたしまして。とにかく逃げられて良かったですね。じゃあ、これで」 僕が立ち去ろうとすると、少女に引き留められる。 「あ、待って!今日泊まる宿は決まってるの?」 「いえ、これから探すところですけど」 「丁度良かったわ。私の泊まっている宿へ一緒に行かない?まだ空いてると思うから」 「え?いいんですか?ありがとうございます」 宿はミラージの宿と看板に書いてあった。 町外れの場所で簡素な作りの部屋。 ベッド、窓際のテーブルには燭台が置いてあり椅子が一脚ある。 泊まるだけなら十分な所だな。 コンコンコン ドアがノックされた。 「入っていいかしら?」 先ほど、助けた彼女が訪ねてきたみたいだ。
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