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パトロン夫妻に深々お礼して宿まで歩く事にした。すっかり夜が更けても東京の街は賑やかに明るい。
「ねえゆきちゃん?」
「なあに?」
「君は演者、裏方、観客、そのどれで居たいの?或いはどれだと思う?」
「んー、裏方さんが良いかな」
「自分自身が舞台に上がろうとは思わないのかい?」
「それは恥ずかしいかなー。それに、大変そう」
「裏方さんだって、同じ舞台に上がるでしょ?あの雪衣さんみたいに」
「そうだね」
雪がちらついて来た。
「ねえ、ゆきちゃん?」
「なあに?」
「僕らはいつか、人生の観客になるんだろうか?その時にやっぱり、お互いが必要なんだろうか?」
「うーん、先の事は、わからないよ」
「そうだね」
雪がゆっくり歩道を白く染めていく。
僕はそれから何にも言わないで、そしたら彼女も何にも言わなかった。
ふたり、ただ歩く。
彼女が消えてしまいそうな気がして怖くて、手を繋ぐと
「わたしたち、若くないのよ。恥ずかし…」最後まで聞きたくなくて、素早く抱き寄せて唇を塞いだ。
あの画。
白と少しの赤しか無かった絵の具。
真白な、真白な黒子の画。
僕はまだ、描くだろうか?
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