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「院長で羊のヤギと申します」
中年男性の声で、前脚の蹄に挟んだ名刺を渡され、私はつい「八木さんですか、よろしくお願いします」と反射的に受け取ってしまう。
そして透明なマニキュアの爪先で持つ名刺と、八木を見比べた。
ふくよかな羊が笑っている。
耳が忙しく動き、走ればスキップしそうなほど愉快そうだ。
ところが白衣を着た羊は椅子の上で人間みたいに座っている。カルテに眼を通し、あまつさえパソコンのキーボードを叩いているではないか。
羊毛に埋もれた、横に細長い左右の瞳孔が私を見つめる。白くまばゆい歯は、虫歯など一つもない。
動物病院の獣医とはいえ、相手はお医者様。珍しく化粧も服装も念入りにしてきたのに、私の気合は羊に笑われただけであった。
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