ウサギとカメ

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上司に気に入られどんどん成果を出し続ける俺と、上司から怒られ全く成果を出せない亀田は、あまりに対照的だった。着々と白星を積み上げる俺と、哀れなまでに「黒」星を積み重ねる亀田、比べられる俺にとっては有難いことだが、同期入社の人間として、さすがにかわいそうに思えた。 「おい。亀田。また今日も説教されていたのか」 違う部署でほとんど会うことのない亀田と、たまたま自動販売機の前で出くわし、俺は声をかけた。 「はは。そうだね」 亀田の表情は、にこやかで、毎日怒られているわりに悲壮感はなかった。 「噂はこっちまで聞こえてくるぞ、〇〇さん、相当しつこいんだろ。上に言ったらどうだ」 「ううん。まあ、言っていることは正しいし、元は僕が悪いんだから、しょうがないよね」 変わらずニコニコしながら話す彼に、俺は思わずため息をつく。 「お前はよくやってるよ。あんだけやられてよく平然としてられるなあ」 「そうかなあ。でも、今までの僕の人生も、ずっとそんな感じだったからね」 彼は、缶コーヒーを口に付け、遠い目をする。 「中学校から大学まで、ずっと陸上部でね、才能がないのは分かってたけど、負けっぱなしで、地区予選も上がれない自分は、やめたほうが良いんじゃないかと思ったこともあったけど、結局最後まで続けてさ」 俺は、普段は聞かない同期の話をぼんやり聞いていた。俺とはまるで真逆の人生、きっと苦労も多かったのだろう。しかし、ここは学校の部活動じゃなくて、力ある者だけが生き残るビジネスの世界だ。結果が伴わない努力は、何の意味もない。 「そっか。まあ頑張れよ」 俺は、心に浮かんだ言葉は口にせず、その場を取り繕うような言葉を発し、自分のデスクに戻った。
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