ウサギとカメ

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俺が入社したのは、何十年と続く歴史ある企業で、言い換えれば古い体質が依然と残る時代遅れの企業だ。 一つの書類を作成するのに、上司の印鑑がいくつも必要になる。たった一つの印鑑をもらうのに、根気強い下ネゴと、上司のご機嫌を取る二枚舌がなければいけない。週に一回の飲み会は自由参加という名の「踏み絵」であり、参加した人間だけが露骨に優遇された。暴言や暴力はないものの、十分や二十分の説教は当たり前だった。 働き始めてから数か月で、時代錯誤も甚だしい会社の体質に嫌気がさし、同期はほとんど辞めた。俺はというと、上司の機嫌取りと、器用に仕事をこなす能力で、消えていく同期の中で頭角を現し、入社してわずかで部署内での確固たる地位を固めようとしていた。 そして、同期で一人だけ、会社を辞めずに続けている人間がいた。亀田は、俺と違い、上司の機嫌取りが下手で、不器用で、毎日のように上司に怒られていた。
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