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家に帰ってアプリを確認する。
「ようこそ、西野真由さん。あなたの運命の糸の相手を探します……決定ボタンを押してください。決定ボタンの前に、注意事項をよく読むことをおススメします」
今度は誰と出るのだろうか。どうか別人がでますように、と決定ボタンを押下する。
「山田悟」
……誰だろう、誰かわからないけど、夕凪くんではない。すると、親友から直後に電話がかかってきた。
「真由って昨日のアプリ試した? 誰が出たの?」
「試した! 山田悟、って出たの。 けど、誰かわかんなくて困ってる」
「ああ、別のクラスの子だわ! 彼、サッカーしてる子で、いい人だよ。えー、真由、いいじゃない! うらやましい!」
「そうなんだ……?」
「そうそう、あのね……いい忘れてた。そのアプリなんだけど、深夜にやるとダメみたい。赤い糸の相手じゃなくて、深夜は黒い糸の相手が見えるって噂が――」
そこで、ぶつりと突然通話が切れた。電話をかけなおしても親友はでない。
――黒い糸?
通話が切れる間際の親友の言葉が脳裏で繰り返される。黒い糸、ってなんだろうか。赤い糸とは違う糸ということだろうか?
アプリを再起動して、注意事項を改めて読み直す。深夜0時以降は黒い糸の相手が表示されます、と記載があった。そのまま、文字を目で追う。
『黒い糸の相手は赤い糸の相手と違い、扱いを間違えると厄介なため近寄らないようにしてください。ただし赤い糸の相手がすでにそばにいれば、黒い糸の相手は手出しができなくなり、やがてその黒い糸との縁はなくなるでしょう。ただし黒い糸の相手の興味を一度でも引いてしまうと、そのまま相手の黒い糸があなたと相手に絡まりあいます。か弱い赤い糸よりも深く強い黒い糸をあえて望むのであれば、黒い糸の相手の興味を引いてください』
注意事項を反芻する。思い返し、あの時夕凪くんが表示された時間帯が深夜だったことを思い出す。つまり、夕凪くんが私の黒い糸の相手で、この山田悟くんという人が赤い糸の相手ということだ。
絡まりあうという表現が怖すぎる。幸い私はまだ夕凪くんの興味を引いていないはずだ。どちらかといえば、落とし物をしてばかりでウザい女だと思われているかもしれない。いや、そうに違いない。
――そう安心していた、その翌日のことだった。
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