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私の親友とバスケ部で人気の先輩が付き合うことになったらしい。深夜にかかってきた親友からの電話報告に、驚いてスマホを落としそうになり慌てて握りなおした。
「そうなの、おめでとう」と私は短く返す。
「ありがとう、真由ならそういってくれると思ってた。すごく嬉しい!」
どちらが先に彼氏ができるか競争ね!といい合っていたが、先を越されてしまったようだ。悔しい気持ちもあったが、なによりも今は特に好きな人がいなかったので、そもそも競争すら成立していない。
「おめでとう、やっぱり前にいっていた人だよね? でもどうして付き合うことになったの?」
「えっとね、アプリで相性抜群、って出たの」
「アプリ?」
「赤い糸の運命の相手を知れるとかいう『運命の糸』ってアプリ。真由もやってみなよ! それで、結果で誰がでてきたのか教えて!」
親友の軽やかな声は私の心に深く染みわたる。私も思わず笑みがこぼれた。
「そうなんだ? じゃあ、やってみようかな。運命の相手ねぇ……」
運命のというキーワードで胡散臭さが勝ったが、ここで空気を読めないほど私もバカじゃない。話もそこそこに電話を切って、時計をちらりと見やる。時刻はすでに0時を回ったばかりのところだ。
「アプリで……?」
思わずひとりで呟いてしまった。疑心暗鬼で件のアプリを探す。早々にでてきた運命の糸アプリ、これだろうか、と早々にインストールして名前と生年月日を入れていく。
「ようこそ、西野真由さん。あなたの運命の糸の相手を探します……決定ボタンを押してください。決定ボタンの前に、注意事項をよく読むことをおススメします」
そう表記されるものの、スクロールするほど長ったらしい注意事項をこんな深夜に読む気になれない。私はスルーして決定ボタンを押下した。結果画面に表示されたのは――
「夕凪直人」
クラスメイトの夕凪くんだった。
「嘘、でしょう……?」
夕凪くんはとってもクールな男子だ。そこがいいと一部の女子生徒に人気だけれども、同時に彼は女嫌いで有名でもあった。玉砕した女子たちを何度見たことか。そういう相手だと知っているからこそ、私も話しかけたことなんて一度もない。
祈るような気持ちで、アプリをもう一度起動しなおして決定ボタンを押下する。結果は同じく夕凪直人、と表示された。何度も試したが結果は変わらない。信じられない結果に、私は言葉を失った。いや、それよりも――……
「……待って。どうして、夕凪くんを知ってるの? このアプリ」
私の名前と生年月日しか入力していない。なのに、なぜ身近なクラスメイトの夕凪くんの名前が出てくるのだろう。得も知れない気味の悪さを感じて、私はアプリを閉じてその日は眠ることにした。
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