1人が本棚に入れています
本棚に追加
山岡が大人学校プロジェクトに携わったのは、あるSNSの投稿と炎上がきっかけだった。
ことの発端は義務教育が中学というのは短いのではと囁かれるようになったからだ。社会人になった後も勉強する人間が多く、教育がもはや当たり前となった現代社会では、一つの疑問が呈された。
「大人も義務教育が必要では?」
今日も今日とて、大賑わいの国会で、大臣のこの発言が大きく話題となった。
「大人の学校、とは?」テレビもラジオもネットですらも、その波紋は広がり更に話題が話題を呼ぶ。山岡もその様子を逐一確認していた一人であったが、行政関連のコンサルティングなため仕事内容と合致する。自分に声がかかるかもしれない、そんな予感がしていた。
「法の知識、税の知識、日本人たるマナーと子供を持つのは免許制というのはどうだろうか。他にも……」
反体勢力をものともせず、早々に可決された大人学校は翌年に設立された。
山岡は予想通り早々にプロジェクトリーダーに抜擢され、今なお愛す賢き妻に助言を求める。
「俺に求めていることは何だ?」と。
そして大人学校を受講する時間帯から、ブラック会社は長時間勤務が禁止となった。夜勤勤務者、土日祝勤務体制にも対応した。
「大人学校のおかげで、過労死が減りました」
山岡にそんな声も聞こえてくるようになる。大事な家事育児のしっかりとした教育については、とりわけ女性陣には大きく評価された。
「名もなき家事の辛さをわかってくれるようになった」「育児の大切さをわかってくれるようになった」「家事を半分ずつ担える」との声。
大人、特に男性は今の社会の仕組みに苦労し感謝し、やっと大人学校の卒業が近づいたのだ。
「卒業おめでとうございます」
やっと終わる、と山岡は胸をなでおろし、明日から過ごす静かな夜をイメージし思いを馳せた。晩酌、読書、映画でも観ようか……。
そして翌日。今日も大賑わいの国会で、大臣のこの発言が話題になった。
「老人のマナーが悪いと非常に問題視されている。老人学校が必要ではないか」
テレビの速報ニュースとテロップに、山岡は思わずため息を漏らした。
最初のコメントを投稿しよう!