第一章 始まりの森で

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「ねえねえ、奏、今日は魔法と剣術どっちを教わりたい?」 下へ降りるともうご飯ができていた。僕は席につきながらロアの質問について考える。 剣術もすごく大切だと思うけど、先に魔術を習ったほうが色々応用は聞きやすそうだけど、魔術もきっと体力や集中力が必要そうだしな。どっちから先に習うか悩みどころだ。 「魔術にしようかな。そしたら後々魔術を剣術に応用しやすそうだし、体力とか集中力とかも魔術でサポートできたらより習得しやすい気がするから。」 僕がそう言うとアルは少し嬉しそうな、ロアは少し残念そうな顔をする。 「そっか〜。ねえねえ、私も行っていいかな?」 「「勿論だよ」」 ってなわけで昨日の残りの魚を食べながら少し談笑した後、みんなでワイワイお弁当を作り、なんやかんやがありまして、今、川の目の前に居ます。 「さて、奏に問題です。」 「いぇ〜い」 …何かが勝手に始まったぞ。 「魔術練習場は川の上流、下流どっちにあるって昨日話したでしょうか。」 …自慢じゃないけど僕はあんまり記憶力が良くない。うわ〜2択どっちだ? 下流だったっけ? 「……下流?」 「ぶっぶー。奏、違うよ上流って言ったじゃん。」 「ごめん。昨日魔術か剣術を教えてもらえるって聞いて舞い上がっちゃって、あんまりその辺覚えてないや。」 「も〜、ちゃんとしてよね〜。因みに下流は武術練習場だからね?」 「うん。気をつけるね。」 そんな馬鹿らしい話をしていたら、魔術練習場は意外と近かったようで、すぐに到着した。お昼には時間があるけど、練習するには少し時間が足りないような中途半端な時間だったので、魔術練習場になぜか設置されていた椅子に座りながら雑談をすることにした。 「そういえば、奏って本当に何も覚えてないの?」 僕は少しドキッとした。 「ううん。僕が多分元いた世界の常識とか知識とかはある程度あるよ。だから文字も書けるし、こうして言葉も話せる。あとは……何も覚えてないや」 「そっか〜。大変だね。」 「そういえば魔術って今日は一体何を練習するの?」 「ワンドを使いこなせて、ジェイドを入手できるレベルまで持っていきたいけど、奏は多分魔術がどういうものなのかある程度想像はついていると思うんだけど、多分感覚が掴めてないから、今日は魔力の圧縮と常時展開の防護結界を習得してもらおうと思う。後は簡単に魔術についての解説をしてあげるよ。」 それからアルは丁寧にこの世界の魔術に関することを教えてくれた。 まあ、色々要点をまとめると、魔術には属性があって、水、炎、風、土、命のそれぞれ5つが大地の恵みと呼ばれていてこの属性が一般的だということ。 そして殆ど見られないが光と闇の荒神の力と呼ばれている属性もあるらしい。魔術が使えるかどうかは個人の適性によってある程度変わるが、比較的習得しやすいものもあるようだ。特に水や炎、風は発現しやすく適正があまりなかったとしても使える様になることが多いらしい。 反対に土や命は適正があれば使えるが、適性があまりない状態での習得は非常に困難であるということ。 光と闇は適正があったとしても相当習得は難しいらしい。 因みに、回復魔術や防護結界などどんな属性でも使えるものは無属性と呼んでいるそうだ。 うん。めちゃくちゃ複雑じゃん。情報量がえげつない。 「基本はわかったと思うからもうちょっと深堀りしながら説明するね。」 結構です!!! ……と、言いたいところだけど、僕のために説明してくれているし、この知識がなくてこれから困るのも僕なので黙って頷いた。 「アル、ちょっと疲れたから少し休もうよ。」 「ロアは何もしてないじゃん」 「話を聞くだけで疲れたの〜」 「……」 「そろそろご飯の時間だし良いでしょ?続きはご飯が終わった後でってことで」 アルはロアが折れる気がないということを悟りため息をついてから言った。 「わかったよ。じゃあご飯にしよう。」 ロアはそれを聞くと待ってましたとばかりに速攻で準備を終わらせた。 まず、いつの間にバスケットを横に持ってきた? いつの間にか机もピカピカ。木漏れ日が反射してますが? ……はい。おそらく魔術ですね。 万能ですね。魔術。僕も習得できるように頑張ろっと。 万能魔術でロアが終わらせてくれたので僕達はすぐに食事にありつけた。 バスケットのサンドイッチをもぐもぐする。 うまい。 「そういえば、奏の属性ってなんだったの?」 「え?わかるの?」 「だってアル昨日ワンドを奏に貸したって言ってたじゃん。何色だったの?」 「深緑……?それがなんの関係があるの?」 「えっとね。奏、魔術の属性には個人に適性があるっていう話をしたよね。」 「うん」 「その属性の魔力は実は決まった色をしててね。水は青、炎は赤、風は緑、土は黄、命は紫、光は白、闇は黒の色をしているんだ。」 「僕の色は深緑だよね。僕の属性は結局なんなの?」 「旅人の中には偶に複数の属性を持っている人がいるんだ。…魂の色だとされることもあるんだけどね。それはあんまり確証がないらしい。この色は割と実際の色と関係があって、つまり炎と風や水と土とかはお互いの存在を引き立てたり、…奏、青と緑って色的に近いってどこかで聞いたことない?二つの似た色。まあ、適性が重ね合わさって深緑になったんじゃないかなって思ってるんだ。まあ、ロアは黄だけど土魔法を使えないし、僕は青だけど水魔法が特別できるってわけでもないから個人差があるみたいだけどね。」 「じゃあ、僕の適性は水と風ってこと?」 「そういうこと。」 「へー奏って水と風の適性があるんだね。風や炎なんかは剣術と合わせやすいし、風はサポート系の魔術も多いからやりやすいと思うよ。」 「そうなんだ。」 「まあ、奏は最初の内は基礎の無属性魔術を練習してもらうけどね。」 「宜しくお願いします」 剣を振るって風の斬撃を飛ばす姿や走る時に追い風を出して早く走る自分を想像して俄然やる気が出た。 「さて、やる気が出たところで魔術の基礎を色々覚えてもらいま〜す」 やっぱりやる気は変わってなかったかもしれない。 ……つまり魔術はイメージと集中力が大事らしい。 長々とした説明を要約するとこうだった。どうしてイメージが大事なのかどうやってイメージするのかとかをわかりやすく解説してくれたり、集中力を高めることの大切さもわかったけど……。 まあ、これも集中力を高めるための練習だったと思うことにしよう。 「というわけで魔力の圧縮を教えていきたいと思う。」 ついにきたー 「そもそも魔力って言うのはまあ俗にいうMPみたいなものでこれが尽きると魔術が放てなくなるんだ。魔力っていうのは有限の器と無限の器ってのがあるのね。器も実はかなり圧縮された魔力の塊で自分の魔力を溜めておく場所なんだ。体の中心付近にあると思う。有限の器っていうのは後付で取り込んだもの、魔力がなくなったらそれっきり。無限の器っていうのは皆持っていて魔力がなくなっても時間が経てば魔力が回復する。限界を超えて魔力を使うと器から魔力が補充されて最終的には壊れちゃう。まあ、壊れるまで使えることなんて本当に切羽詰まっているときや自分の意思で強く割れろって願わない限り簡単に割れないから安心していいよ。基本的に魔力がなくなったら勝手につかえなくなるだけだからね。別に特段心配しなきゃいけないことはないよ…んで、自分が持っている魔力を増やすには方法が二つあってね。器を無理やり広げる方法。もう一つが魔力を圧縮する方法なんだ。」 あ〜……。 「魔力を圧縮するイメージは人によって違う。僕はぐちゃぐちゃになった布団をたたむイメージ」 「私はね。こうグググって箱に無理やり押し込めるイメージ」 「とにかく大きなものを小さくするとか、バラバラになった何かを集めるようなイメージを思い浮かべてみて。」 ……バラバラになった。パズルを端っこから綺麗に揃えていくとか? 揃え終わったらまた上に同じように積み上げて……。 「魔力が巡ってるの感じる?」 「ううん。わからない。イメージもしてみたけど実感わかないな。」 「じゃあ、手を出して。」 「うん。」 「僕の指先から奏の指先に集中して。」 …細い何かが繋がっているような……。 「それをゆっくり辿って。」 なんだか箱みたいなものがある。 「それが器だよ。奏の器はどんな形?」 「箱…長方形の箱。なんだか本の形の小物入れみたい。」 「そっか。器の場所がわかったみたいだね。魔力がわかる?」 「ちょっとぼやっとしてるけど。」 「それをイメージに置き換えてやってみて。」 このぼやっとしたのをパズルのピースみたいにして。 …なんか正方形のプレートになったけど……。 これでも良いや。 これを端っこの方から丁寧に詰めて………… 「奏!!!ストップ」 アルの慌てた声が聞こえた瞬間、僕の視界がぐらついた。 アルとロアの二人が咄嗟に受け止めてくれたおかげで僕は倒れずにすんだ。 「こんなにうまくいくとは思ってなかったから言い忘れたけど、魔力圧縮は本来体にものすごく負担がかかるから、一日に少しずつを毎日続けるのが大切なんだ。ごめん、先に言っておくべきだったよね。」 「大丈夫。心配かけてごめんね。」 「ちょっと休もうか。中に入ろう。」 アルとロアに支えながら僕は練習場の中の休憩室のベッドに横たわった。 相当負荷がかかってしまっていたのか(どちらかというと体の負荷よりも長い長い説明を聞きすぎたことでの頭の負荷の方がつよいけど)、僕はすぐに眠りに落ちてしまった。
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