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「あるところに、小さな少女が居ました。
少女には白い羽があったので自由に空も飛べました。
けれど、その容姿から人々に畏れられ
仄暗く小さな部屋に閉じ込められました。
白い翼を動かすことすらできませんでした。
唯一覗く、月夜照らす窓。
少女はその些細な光の下で本を読みました。
少女は本が大好きでした。
ある時、一人の旅人が少女の元を訪れました。
旅人は少女に
「一緒に来てほしい」
と、言いました。
少女を虐げていた人々はとても嬉しそうに少女を自由にしました。
少女は見た目ほど幼くなく、旅人と同い年でした。
やがて、少女は成長し、美しい女性になりました。
彼女の白い羽は彼女の美しさをより一層際立て、彼女はあの空を飛び回りました。
ある時旅人はそんな彼女にペンダントを渡しました。
月夜のようなラピスラズリのペンダントです。
ある時旅人は魔族に襲われました。
彼女は驚くほどの剣術と魔法で旅人を助けました。
彼女は森の精霊に認められし勇者だったのです。
勇者だと知った旅人は彼女に英雄として人々を救うことを望みました。
旅人のために。と、彼女は訓練を重ね。努力をし、立派な勇者だと他者も認めるほどになりました。
旅人は彼女に
「勇者として使命を果たしてほしい」
と、言いました。
彼女は悲しげでした。
勇者になった彼女を皆慕いました。彼女の羽は飛ぶことを忘れてしまったようでした。
彼女が勇者としての仮面を外せる時は自室で本を読むときだけでした。
ある時、圧倒的な力が村を襲いました。
彼女は必死に力と戦いました。
村を守るために。…役目を果たすために。
彼女は力に打ち勝ち見事、村を守りきることができました。
彼女が村に戻ると村の人は畏れ、彼女のことを忌避しました。
けれど、彼女は耐えました。
旅人が家で待っていたから。
旅人は彼女を見て言いました。
「この村からでていけ。二度と帰ってくるな」
彼女は言いました。
「貴方様がそう仰るなら。」
彼女は机に置いてあった、深く顔が隠れるほどのフードと旅人にもらったラピスラズリのペンダントだけを持ち部屋を去りました。
旅人は待ってくれと一言。
しかし、彼女は旅人の元へ帰りませんでした。
彼女は美しい白い羽根で空高くまで飛んでいきました。
次の日、勇者がいなくなったことを知った魔族が村へ侵略しに来ました。彼女はその村を見つめていました。
「勇者を追い出すなんて馬鹿な奴等ね。あいつの結界が無くなったこの村を攻めるのはいとも容易いわ。」
魔族は村の人達に言い放ちました。
村の人達は天を仰いで帰ってきてくれと、助けてくれと、口々に叫びます。
彼女は助ける気にはなれませんでした。
そんな人々に向かって旅人は言いました。
「僕達のマリオネットはもう自由に空を飛んでいます。我々の言葉のナイフはマリオネットの糸ごと心を壊してしまったのだから。」
魔族が旅人に剣を突き立てたとき、彼女はフードを被り、その魔族を殺しました。
旅人はフードを被っていてもその正体に気が付き、彼女に言いました。
「もう一度、僕と一緒に旅をしてくれないか?」
「…もう一度?私は貴方様と旅をしたことはありません。お断りさせて頂きます。」
彼女はそれから何も言わぬまま立ち去り、もう二度とその村へ帰ることはありませんでした。雫がポトリと落ちました。
あるところに、妖怪がいました。
妖怪には白い羽がありました。
空も自由に飛び回れます。
けれど、月夜のような瞳は。どこか悲しげでした。
彼女の首には月夜のようなペンダント。
月夜照らす空。
妖怪はその些細な光の下で本を読みました。
妖怪は本が大好きでした。
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