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僕がこの本を読み終わり空を見上げると、すっかり暗くなっていた。
僕は換気をしていた扉を締めてベッドに横になる。
今日あったこと、疑問を整理するため、僕は一度思考を巡らせた。
なぜここに来たのか。そして、唯一覚えている。
誰かが語りかけてくれた。
「御伽噺」
これをなぜ覚えているのか。誰が教えてくれた?誰と一緒に居た?どんなところだった?
……思い出せない。
でも、ここは僕の世界じゃない。それだけはわかる。
僕は元の世界に帰るべきなのかを考える。
考えているうちに眠気を感じ、僕は静かに目を閉じた。
ふと目が冷め、外を見ると明け方だった。
まだ寝ていたいと思い、ベッドに再度潜り込む。
「……寝れない。」
しばらくその場でゴロゴロしてみるも何故か目が冷めてしまい眠ることができなかった。
二度寝に失敗した僕は少し散歩がてら村の探索をすることにした。
明るくなってからだと、廃れた風景がより一層印象に残る。
蜘蛛の巣?がかかった松明の跡、壊れかけた家。
「廃村か…。」
そういえば、人間と魔族の争いで沢山の村が滅びたと聞く。
ここもそのせいで滅びたのだろう。
今も人間と魔族の争いが昔ほどではないものの、和解した訳ではないのだ。
「明るくなってきたな。」
もう誰も住んでいないとはいえ、勝手に住み着くのには抵抗があった僕はもう一度小屋に入り、荷物をまとめる。
不意に昨日詠んだ名無しの本読み妖怪という本が目にとまった。
「何故かひっかかるんだよな。」
しかし、勝手に誰かの所有物を盗んでいくほど落ちぶれてはいない。
僕は少ない荷物に目を戻した。
「一晩有難う御座いました。」
僕は小屋に向かってそう言うと、小さく礼をした。
さて、また探索をするか。
そう思ったときだった。
「貴方はだあれ?」
振り返ると二人の子供がいた。
顔つきが似ている。双子かな。
「……君たちは?」
「僕はアルスト・ローダンセ」
「私はロメリア・ローダンセ」
「ここに君たち以外に誰かいるの?」
「「誰もいない。」」
「他に行くところはないの?」
「だったら私達の家に来る?」
「いいの?」
「早く着いてきて」
二人が案内してくれた家は村の一番大きい家だった。
「ここが君たちの家?」
「そうだよ。」
「こっちだよ。ロア。食事の準備をしてくれる?」
…そういえば朝ご飯を食べていなかったな
「了解。アル。そっちは宜しく。」
僕はアルストに連れられて部屋に行く。
すごく豪華な客間。
「ここは誰も使っていない部屋だから好きにしていいよ。」
「こんなに豪華な部屋使っていいの?」
「勿論だよ。貴方は迷子なんでしょ?だったらここにずっと居ていいよ。」
「本当?有難う。」
「うん。正直この村、僕たち二人で心細かったしさ。一緒に暮らそうよ。」
僕はアルストに連れられて下の階へと向かう。
下の階ではロメリアと呼ばれていた子が三人分の食事を用意してくれていた。
「アル〜。部屋の案内は済んだ?」
「うん。済んだよ。ご飯冷めちゃうから早く食べよう?」
「いただきます」
僕は椅子に座り並んだ料理を口に運ぶ。
「じゃあ、自己紹介をするね。僕はアルスト・ローダンセ。アルって呼んでよ。」
「私はロメリア・ローダンセ。ロアって呼んで。アルとは双子の兄妹なの。ねえ。まだ貴方の名前を聞いてなかったの。名前は何ていう?」
「僕の……名前……。」
……思い出せない。
「うん。何ていうの?」
「……わからない。」
「う〜ん。困ったなぁ。」
「名前がないと不便だね。」
確かにそうだ。本当の名前が思い出せないのだから少なくとも仮の名前ぐらいは必要になるだろう。
「僕達でつけちゃおう。」
「いい?」
僕は特に断る理由がなかったため、首をたてに動かした。
「夜月、夜宵、紫月、想華、奏…。」
ロアが思いついたであろう名前の候補を上げる。
…奏…かなで…。
「奏がいい。」
なんとなく奏がしっくりきた。
「僕は奏。これからは奏って呼んで」
「了解。」
「これから宜しくね。奏。」
「この食材は君たちが採ったの?」
「うん」
「そ〜だよ」
すごい。こんなに沢山の食材をまだ、年端もいかない子供達が?
「僕にも食材の取り方を教えてくれる?何か役に立ちたい。」
「いいよ。教えてあげる。食べられる山菜とか教えるよ。」
「僕は肉や魚を取り方を教えるよ。」
「ここで暮らすために私達が色々教えてあげるね。」
「色々と有難う。アルストさん。ロメリアさん。」
「アルとロアって読んでほしいな。」
「…じゃあ、アルとロアに聞きたいんだけど、僕は君達に何も返せないけどこんなに親切にしてくれていいの…?」
僕はこの世界に来たばかりでまだ何もわからないし、初対面でなんの義理もない僕に対してこんなに優しく接してくれる…。少し申し訳ない。
僕がそういうとアルとロアは顔を見合わせて笑った。
「気にしなくていいよ。私達の気まぐれだからね。…まあ、あと二人で寂しかったし、一人増えて賑やかになったら楽しいと思ったの。」
「そうそう、気にしなくていいよ。これから僕達と一緒に過ごす仲間なんだからさ。それよりも、部屋を整えなくていいの?」
「あんまり荷物ないから別に大丈夫だよ。」
「それでもここで暮らしていくんだから、荷物の整理でもして必要なものを揃えなくちゃ。」
二人にそう言われたので僕は有り難く部屋の準備をすることにした。
何回見ても豪華な部屋だな。
それにしても、どうして僕にこんなに親切にしてくれるんだろう。
出会ってから数時間も経過していない。
それなのに、ご飯もくれて。家に住ませてくれるなんて。
あんな幼い子供が二人きりで生活をするなんて信じられなかったが、あの二人ならできそうな気もする。
僕はベッドに座り、部屋の中を見渡してみる。
ふと、小さな箱がチェストの下に見えた。
僕はなんとなくその箱を手に取った。
「随分と古いものだな。埃が被っている。しばらく開けられていないのだろうな。」
中身は鍵付きの日記帳。小さな鍵、そして二通の手紙が入っていた。
小さな鍵を日記帳に差して見るけれど、日記帳の鍵ではなかったようで入らなかった。
僕はそっと箱を閉じ、元の場所に戻した。
チェストの上の写真立てが目に入る。
そこには、彼らの両親らしき者達と、今よりも更に幼い双子。…アルとロアだろうか。その隣には青年がいた。僕と少し似ていた。
…なんとなく、勝手な想像をしてしまう。
きっと、彼と重ねたんだろうな。仲が良さそうだ。多分。彼らの両親と青年はもう…。
僕は勝手に申し訳ない気持ちになった。
トントン
…扉を叩く音が聞こえる。
「奏、今ちょっと良いかな。」
アルの声だ。
「もちろん良いよ」
ガチャ
扉の開く音がした。
「ここに小さな箱と写真立てがあるんだけど、必要なものだから返してもらっても良い?」
やっぱり二人にとって大切なものだったんだ。
「…これとこれであってるかな?」
僕は小さな箱と写真立てを手渡した。
アルは写真をちらりと見て、僕の方を向いた。
「有難う。」
アルはそれだけ言うとさっさと部屋を出ていってしまった。
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