第一章 始まりの森で

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あの後何とか片付けを終わらせて必要なものをまとめきった。 達成感と疲労でベッドにダイブした僕はそのまま深い眠りについてしまった。 「森に行くって言う話だったよね。どこに行くの?」 「魚釣りに行くよ」 「奏に道具、貸してあげる。」 「有難う。」 僕達は朝食を食べ終わり、魚釣りに行くことにした。 ロアは何か用事があるようで、アルと二人で行くことになった。 森の中を暫く歩くと川が見えてきた。森の中はいろんな生物がいて飽きなかったが中々に歩きづらいせいでとても疲れた。 川はすごく澄んでいてとても綺麗だった。 「これを使うんだよ。」 そう言って手渡されたものは僕が知っている釣り竿とは全く違ったものだった。 「…魔法の…杖……?」 「マホウノツエ?違うよ。これはジェイドだよ。この世界の者はみんな持ってるけどわからない?」 僕は黙って首を横にふる 「奏は持ってないのか。じゃあ、ワンドを貸すね。ジェイドって言うのは8歳の時に一人ひとつずつ与えられるものでね。これで色々できるんだ。すごく便利なんだよ。」 へー。いいな。僕は何歳だったか思い出せないけど少なくとも8歳よりは上なはずだから貰えたりするんだろうか。 「えっとね。ちょっと説明が難しいんだけど、このジェイドには小さな宝石がついてるでしょ?あれは神様の加護がついた貴重なもので小さな欠片でも相当な力がだせるんだ。」 すごい。神様は実在していたんだ。 「ジェイドを手に入れるには8才にならないといけないんだ。でも、8歳になっていきなりじゃあ、ジェイドを使いましょうとか言われても使えないでしょ?だから、ジェイドを手に入れる前に、練習としてこのワンドっていう、練習用の魔導具を使うんだ。奏は初めてだと思うから、まずはワンドで練習しよう。基本的な使い方はこれと同じで…まあ、見たほうが早いよね。やってみるから見てて。」 「うん。わかった。」 「ディストーション」 そう言うと、ジェイドから糸のようなものがでてきた。 そしてアルはそれを川に垂らす。 「ワンドに僕のマネをしてディストーションって言ってみて」 これで僕も魔法が使える…。 僕はワクワクしながら唱える。 「ディストーション」 ……何も起きない。 やっぱり一般村人には無理ですか。そうですか。 「あっ。ごめん。先にワンドに登録をしないと。先端の宝石のところに手を当てて。」 お〜魔術具登録とか魔法使いっぽい。 「わかった。」 僕が手を当ててみると何かが体の中からでていく感覚がした。 それと同時に宝石の色が変化し始める。 「奏の色は深緑なんだね。宝石の色は人によって違うんだ。」 「僕は青、ロアは黄色だよ。」 そういえば、変化する前は青色だったな。 よく見たら、アルが持っているジェイドの宝石は青色だ。 「まあ、その辺の説明は後々されるだろうし、今はどうでもいいんだけどね。さあ、今度こそディストーションって言ってみて。」 「ディストーション」 …おお、なんか糸のようなものが出てきた。 「やったね。じゃあ釣りを始めようか。餌はなくても大丈夫だよ。っ…と、早速釣れたみたいだね。……」 どんどん糸が短くなっていく。 「まあまあ大きいね。」 アルは持ってきていた箱の中に魚を入れた。 あんな感じに短くして釣るのかな。 すると、体の中に何かが戻ってくるような感覚がして糸が短くなった。 ……こんなに短かったら釣りができないよ。 そう思ったら、体の中から何かが出ていくような感覚がして元の長さに戻って いった。 体の中の何かの量を調節すれば糸の長さが変わるみたいだ。 僕はアルを真似て、川の中に糸を垂らしてみる。 3分ぐらい経過した。 中々釣れないな。 …10分ぐらいどちらも何も釣れていない。 「あんまり釣れないね。まあ、釣りってそんなものだけど。」 「って奏、竿引いてるよ。」 「本当だ」 全く気づかなかった。 ええっと…取り敢えず、短くなれ。 …釣れた。 「わー。奏大きいね。」 「ちょっとでか過ぎない?」 僕の腕ぐらいあるんだけど。 まあ、僕の世界にも大きな魚はいるけど、こんな川で腕ぐらいの魚って釣れるものなのかな。 …僕の世界とは違うから、こっちの世界ではどうなのかは知らないけれど。 その後ものんびりとした暇で楽しい時間を過ごした。 日が少し傾く頃には持ってきた箱の中身はいっぱいになっていた。 「今日はご馳走だね。奏が手伝ってくれたから、いつもより多く取れたよ。」 「それはよかった。…このワンド返すね。貸してくれて有難う。」 「それなんだけど、ワンドは奏が持ってて、日常生活でも使うだろうし、これから魔法の使い方とかも身を守るために必要だからね。」 「そうなんだ。有り難く持っておくね。」 「さあ、帰ろうか。」 僕達は家へと歩みを進める。 僕達はつい昨日初めてあったばかりなのに、こんなに親しくしてくれている。 本当に優しい子達だ。 拾ってもらえてよかったよ。 「オゲァァァァァ」 …何事!?何の叫び声? 僕がに浸っていると、その空気をぶち壊すが如く獣の叫び声が山を木霊する。 次の瞬間、僕達の前に声の主が現れる。 青い炎をまとった狼の獣だった。 どうしよう。 取り敢えず逃げないと。 「アル!取り敢えず家とは反対方向に……」 「レイフィア」 アルがリフレインワンドを獣に向けてそう言うと、炎っぽい小規模の爆裂魔法が獣を取り囲み、そのまま獣が消滅した。 ……うん。 本当によかったよ。 多分、僕だけだったら死んでたよ。 「アルすごい。あんなに強そうな獣を倒すだなんて。」 「そう?あの獣はこの辺に結構よくいるんだ。ターナルメットっていうんだ。」 「あんなのが結構いるの?」 「大丈夫だよ。あの獣は結構弱いし、奏もワンドの使い方を覚えたら速攻で倒せるようになるよ。」 「そっか。じゃあ、強くなれるように頑張るね。」 「でも、戦い慣れてないんだからあんまり無理はしちゃ駄目だよ。僕達をちゃんと頼ってね。」 「うん。」 その後、特に何も話すことがなくなった僕達は、家に帰る途中ずっとしりとりをしてた。 そして、めちゃくちゃ知らない単語がでてきた。 こっちの世界の獣の名前とか魔術具の名前とか知らないんですけど…。 まあ、それは向こうも同じだったようで何回かどういうものか聞かれた。 「ただいま〜。」 「おかえり。早かったね。アル、奏。釣りどうだった?結構釣れたね。」 「奏と二人がかりだったからね。」 「あっ。今日はイラギオルがあるじゃん。」 そう言ってロアが取り出したのは僕が一番最初に釣った腕ぐらいの大きさの魚だった。 へーあの魚イラギオルっていうのか。 アルとロア曰く、イラギオルは刺し身に適した美味しい魚らしい。 殆どの部位が食べられるため、無駄が少なくて良いんだとか。 「今日は刺し身だね。魚を捌いておくから、奏は先にお風呂に入ってて。アル〜。案内してあげて。」 「わ〜い。刺し身めちゃくちゃ美味しいんだよ。ロア魚を捌くのとても上手いんだ。僕、捌いたことあるんだけど、ダークマターが出来上がったよ。」 苦笑しながらアルは風呂まで案内してくれた。 「奏は着替えないと思うからこれ使って。多分ちょうどいいと思うよ。」 そう言ってアルは写真の男性が身につけていた服を僕に差し出した。 きっとあの人のものだったのだろう。 僕はアルにお礼を言うと 「じゃあ、ごゆっくり~。」 そう言うとアルはキッチンの方へ向かって行った。 脱衣所は小さめの銭湯ぐらいの大きさだった。 「結構広いな。」 僕は服を脱ぎ、風呂の扉を開けた。 やっぱり広い。銭湯でよくある一人用の寝転がれる風呂が一つと、外には露天 風呂があった。 「わぁ…」 本当に広すぎる。 「ふぅ~」 僕は広すぎる湯船に体を沈める。 あの写真の人…何か名前をつけちゃおう…アルとロアが話してくれたらその時に改めればいいや。 アルとロアの家族だから、そこからとって、えーと。じゃあ仮にアロエと呼ぶことにしよう。 エはどっから来たなんていうツッコミは受け付けておりません。 アロエは僕とかなり似ている。 そのことがただの偶然とは思えなくて、少し気持ち悪かった。
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